- 2018-08-17 (Fri)14:37
- 近藤雅世
- マーケット全般
先物市場は、売りからも入ることができる。現物市場の株式市場で投資を行う人々には少し分かり難いかもしれない。現物市場でも空売りはできるが、文字通り物を持っていないのに売るから「空売り」という名がついているのであり、株式市場で売りから入りたければ、株式(現物)を借りてくるという行為が必要となる。これを信用取引と称し、証券会社は信用のあると思われる投資家から担保を取って手持ちの株式を貸し与え、それを売らせるという仕組みとなっている。
一方先物市場の考え方は、契約形態であるので、現物を持っていなくても売ることができる。つまり売り契約をするのであり、物を今受け渡すのではない。将来に受け渡すという契約をするだけで、売ることができる。取引業者は、買いのお客と同様な額の担保となる証拠金を要求するが、これは契約を履行しますという契約保証金のようなものである。
こうした先物取引は江戸時代の大阪で米問屋が帳合米取引として世界で最初に作った仕組みであるが、米問屋は秋に収穫されるであろう産地のコメを大名から今販売して利益を確定するという行為を委託されていた。この行為は、今や世界中の農産物を生産する生産者が利用し、ブラジルのコーヒー農園やオーストラリアの小麦生産者はニューヨークやシカゴの先物市場で、秋に収穫するはずの作物を最も高いと思われる価格が付いた時にその一部を売り契約している。
さて、こうした先物価格は常に需要と供給の関係で価格が動いており、ニューヨーク市場での価格は現物に近い限月(受渡月)の価格が標準価格となるが、日本の市場では商慣習によりたとえば貴金属の場合は1年先物の価格が標準的な価格となっている。
そして、現物価格と先物価格には直先差というスプレッドが存在し、常にそれは動いている。下の図は、米エネルギー情報局(EIA)による短期需給予測(Short Term Energy Outlook)の8月号に記載されてブレント原油価格直物と13ヵ月先物のスプレッドとWTI原油価格の同じスプレッドを対比したものである。2018年の7月初めには原油価格のスプレッドが大きく拡大していることが分かる。これは、米国のガソリン需要が旺盛で米国中西部における石油精製設備の稼働率が上がり、原油の投入量が増大し、ニューヨーク商品取引所で取引されているWest Texas Intermediate原油の受渡場所である、オクラホマ州クッシングの原油保管場所から多くの原油が引き出されて、直物すなわち現物の原油価格が上昇し、先物価格が割安となるバックワーデーションという現物高の先物安という現象が生じたことを表している。ロンドンで取引されているブレント原油価格はそれほど直先差のスプレッドが大きくないのは、それだけ、現物の供給が旺盛で需要に十分対処しているということを表している。
通常直先差(スプレッド)は商品の保管費用と金利を上乗せされた先高(コンタンゴ)が正常な状態であり、何もなければ、スプレッドはアービトラージによりこのコンタンゴのスプレッドに収れんする。しかし、現物が払底すると
大きなバックワーデーションになることがある。
たとえば1999年初めには1000円前後東京商品取引所のパラジウム価格は2001年1月29日3710円と2年間で3倍以上に値上がりしている。この時は実際にパラジウムが払底した。
なぜなら、その少し前からであるあ、TDK、ローム、京セラ、村田製作所、太陽誘電等がコンデンサーという電子部品を大量に作り始めたためだ。わずか1ミリ角のコンデンサーにはパラジウムペーストが百層に塗られた部品がハンディカメラや電気製品に数多く使われ始めた。電子機器の小型化はこうした電子部品の極小化によって成立したと思われる。相前後して自動車メーカーはプラチナよりもパラジウムの方がガソリン自動車の触媒には向いているとしてパラジウムの需要が急拡大した。筆者が責任者だった頃の商社の貴金属チームには、以前の5倍のパラジウムが必要だという調達以来が同時に舞い込んだものである。筆者はロシアと南アに何度も足を運び、パラジウムの調達に当たった。先物市場に上場されている商品は価格の変動リスクが無い。現物を買って先物市場で売っていれば、将来価格が高騰した場合は儲け損ねるが、価格が下落しても損をすることはない。なぜなら先物取引による反対売買で、現物の損益と反対の損益が出るためだ。とにかく現物を買えばその場で先物を売り、現物が売れれば、先物を買い戻すという機械的な作業で価格の変動は免れる。
この頃商社が買い占めしていると勘違いをした多くの投資家がいたが、そうではない。実際にある日突然パラジウムに対する現物の巨大な需要が一気に表れたのである。そして、不幸なことに価格が上がり始めると、チャーティスとの投資家は、価格が高すぎるのでいずれ下がると売り始めた。中には現物を扱っていない商社がスイス市場でいくらでもパラジウムを高く売ることができ、東京商品取引所との間で裁定取引をすれば儲かるとして東京で買ってスイスで売るという取引を行った。ところが、スイス市場は現物を要求してきた。東京の先物市場は現物を受け渡す投資家は商社以外にはおらず、現物を扱う商社はいくら現物があっても買う以外に行っていなかった。つまり東京市場で現物の受渡を受けることは不可能であった。スイスで売ってしまった商社は困り果て、現物を扱う商社にパラジウムを借りに来た。現物を扱う商社は当時年率400%という高金利でそうした商社にパラジウムを貸し出したことがある。
こうした先物市場でスクイーズが起きると、多くの投資家が大損害を受ける。当時商社が価格を操作して、商品取引所に解け合いをさせたとして裁判所に訴え出た投資家がいるが、残念ながらそうした事実は照明されなかった。市場は急激な需要の増大に耐えかねて温度が上がっただけのことで、人為的な動きではなかったのだ。
一方先物市場の考え方は、契約形態であるので、現物を持っていなくても売ることができる。つまり売り契約をするのであり、物を今受け渡すのではない。将来に受け渡すという契約をするだけで、売ることができる。取引業者は、買いのお客と同様な額の担保となる証拠金を要求するが、これは契約を履行しますという契約保証金のようなものである。
こうした先物取引は江戸時代の大阪で米問屋が帳合米取引として世界で最初に作った仕組みであるが、米問屋は秋に収穫されるであろう産地のコメを大名から今販売して利益を確定するという行為を委託されていた。この行為は、今や世界中の農産物を生産する生産者が利用し、ブラジルのコーヒー農園やオーストラリアの小麦生産者はニューヨークやシカゴの先物市場で、秋に収穫するはずの作物を最も高いと思われる価格が付いた時にその一部を売り契約している。
さて、こうした先物価格は常に需要と供給の関係で価格が動いており、ニューヨーク市場での価格は現物に近い限月(受渡月)の価格が標準価格となるが、日本の市場では商慣習によりたとえば貴金属の場合は1年先物の価格が標準的な価格となっている。
そして、現物価格と先物価格には直先差というスプレッドが存在し、常にそれは動いている。下の図は、米エネルギー情報局(EIA)による短期需給予測(Short Term Energy Outlook)の8月号に記載されてブレント原油価格直物と13ヵ月先物のスプレッドとWTI原油価格の同じスプレッドを対比したものである。2018年の7月初めには原油価格のスプレッドが大きく拡大していることが分かる。これは、米国のガソリン需要が旺盛で米国中西部における石油精製設備の稼働率が上がり、原油の投入量が増大し、ニューヨーク商品取引所で取引されているWest Texas Intermediate原油の受渡場所である、オクラホマ州クッシングの原油保管場所から多くの原油が引き出されて、直物すなわち現物の原油価格が上昇し、先物価格が割安となるバックワーデーションという現物高の先物安という現象が生じたことを表している。ロンドンで取引されているブレント原油価格はそれほど直先差のスプレッドが大きくないのは、それだけ、現物の供給が旺盛で需要に十分対処しているということを表している。
通常直先差(スプレッド)は商品の保管費用と金利を上乗せされた先高(コンタンゴ)が正常な状態であり、何もなければ、スプレッドはアービトラージによりこのコンタンゴのスプレッドに収れんする。しかし、現物が払底すると
大きなバックワーデーションになることがある。
たとえば1999年初めには1000円前後東京商品取引所のパラジウム価格は2001年1月29日3710円と2年間で3倍以上に値上がりしている。この時は実際にパラジウムが払底した。
なぜなら、その少し前からであるあ、TDK、ローム、京セラ、村田製作所、太陽誘電等がコンデンサーという電子部品を大量に作り始めたためだ。わずか1ミリ角のコンデンサーにはパラジウムペーストが百層に塗られた部品がハンディカメラや電気製品に数多く使われ始めた。電子機器の小型化はこうした電子部品の極小化によって成立したと思われる。相前後して自動車メーカーはプラチナよりもパラジウムの方がガソリン自動車の触媒には向いているとしてパラジウムの需要が急拡大した。筆者が責任者だった頃の商社の貴金属チームには、以前の5倍のパラジウムが必要だという調達以来が同時に舞い込んだものである。筆者はロシアと南アに何度も足を運び、パラジウムの調達に当たった。先物市場に上場されている商品は価格の変動リスクが無い。現物を買って先物市場で売っていれば、将来価格が高騰した場合は儲け損ねるが、価格が下落しても損をすることはない。なぜなら先物取引による反対売買で、現物の損益と反対の損益が出るためだ。とにかく現物を買えばその場で先物を売り、現物が売れれば、先物を買い戻すという機械的な作業で価格の変動は免れる。
この頃商社が買い占めしていると勘違いをした多くの投資家がいたが、そうではない。実際にある日突然パラジウムに対する現物の巨大な需要が一気に表れたのである。そして、不幸なことに価格が上がり始めると、チャーティスとの投資家は、価格が高すぎるのでいずれ下がると売り始めた。中には現物を扱っていない商社がスイス市場でいくらでもパラジウムを高く売ることができ、東京商品取引所との間で裁定取引をすれば儲かるとして東京で買ってスイスで売るという取引を行った。ところが、スイス市場は現物を要求してきた。東京の先物市場は現物を受け渡す投資家は商社以外にはおらず、現物を扱う商社はいくら現物があっても買う以外に行っていなかった。つまり東京市場で現物の受渡を受けることは不可能であった。スイスで売ってしまった商社は困り果て、現物を扱う商社にパラジウムを借りに来た。現物を扱う商社は当時年率400%という高金利でそうした商社にパラジウムを貸し出したことがある。
こうした先物市場でスクイーズが起きると、多くの投資家が大損害を受ける。当時商社が価格を操作して、商品取引所に解け合いをさせたとして裁判所に訴え出た投資家がいるが、残念ながらそうした事実は照明されなかった。市場は急激な需要の増大に耐えかねて温度が上がっただけのことで、人為的な動きではなかったのだ。
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