- 2018-07-04 (Wed)09:31
- 近藤雅世
- マーケット全般
市場は、競争原理が守られることによって多くの市場参加者が価格の思惑をぶつけ合い、公正な価格を形成する場所である 豊臣秀吉が開拓した大阪城下には、全国各地からコメが運び込まれ、大名のためにコメを現金化する商人が淀屋の軒先に集まった。当初は現物市場だけであったが、後には秋に収穫されるであろうコメの取引も始まり、コメ問屋が契約した価格と数量、受渡時期などを帳面に記帳したため、帳合米市場と称された。これが世界に先駆けての先物市場の形成である。ロンドンのコーヒーショップでも、海外から運び込まれる非鉄金属に対してLondon Metal Exchangeは形成され、航海日数を勘案して先物市場ができた。厳密にはLMEは先渡し市場である。何が違うかというと相対取引の集積だからである。先物市場は買い手と売り手が同じ時間同じ場所に集合して市場で決められた規格の商品価格を決めるが、Over the Counter(相対取引)により一対一の取引を契約し、それを市場管理者に報告することで、その日の価格が形成される仕組みとなっている。
先物取引市場の主な利用方法は、ヘッジ取引である。日本語にすると掛け繋ぎと訳され何のことやら分かり難いが、Hedgeとは価格変動リスクを市場につないで価格変動リスクを無くす行為である。
具体的には、銅の鉱石を銅鉱山から購入する。価格は受渡月のLME3か月先物価格の月間平均価格とする。3か月というのは、海外からロンドンに運ばれる非鉄金属の航海日数がおおよそ3か月先であったことから、LMEでは3か月先物価格が標準となっている。日本の東京商品取引所ではおおむね1年先物価格を取引することが慣習となっており、NYMEXやCBOTなどの米国市場は、期近限月の受渡が取引の主流となっている。
たとえば、コメの生産する農家は、今は7月だが、秋に収穫されるであろうコメを大阪堂島商品取引所の今日の10月限価格で売却すれば、今日の価格でその農家が生産するコメの価格は確定する。数量は、作れるであろうコメの量だが、異常気象等に備えて水田の田植えをした量の全部ではなく、少し少なめにヘッジする。秋に実際にコメを収穫したとき、豊作で7月より価格が下がっていても、大阪堂島商品取引所の指定受渡場所までトラックで持ち込めば、7月に先物市場で売却した価格で清算される。逆に不作で価格が高騰している場合も契約した先物価格の代金しか受け取ることはできない。往々にして、農家や企業経営者で、こうしたヘッジの仕組みを知らない人が、「なんで先物市場なんか使うのだ」と怒ることがある。しかし、もし豊作で価格が暴落したときは「どうして先物市場でヘッジしておかないのだ」と言う。実際に銅鉱山取引で某商社の役員は非鉄金属担当役員に対して上記の、両方の言葉を投げかけている。都合の良い方をおっしゃるのであるが、経営者たるもの価格をヘッジしたのは、保険を掛けたのと同じであり、事故が起こらなければなんで保険なんかかけるのだと言い、事故があればどうして保険をかけていなかったのだと言うことと同じである。
世界の大半の農家は、ことに米国や中国、ブラジルやアルゼンチンのトウモロコシや大豆生産者、カナダや豪州の小麦生産者、南米などのコーヒー生産者は先物市場を利用して農園で生産する作物の一部の量を先物でヘッジしている。
日本の鉄鋼メーカーやアルミの建材などを使用するサッシメーカーは先物市場を利用していない。
筆者は、何度も新日鉄の子会社の亜鉛メッキメーカーに対して先物でヘッジしたらどうかと提案したが、どうしても先物を理解してくれなかった。新日鉄が作る鉄板は、鉄のままだと錆びてしまうため、亜鉛メッキが欠かせない。自動車鋼鈑にしてもガードレールなどその他の鉄製品もほとんどが亜鉛メッキ鋼鈑である。亜鉛の価格は常時動いており、毎月彼らの仕入れ原価は上下動している。価格が下がれば利益がでるが、亜鉛価格が急騰したりすると大損となる。ところが、新日鉄は先物市場を理解せず、利用しない。なぜなら、亜鉛価格が上昇すると顧客に対する鋼材の価格を値上げするからだ。年に何回か顧客と鋼材価格を交渉し、価格は毎年必ず上がることになっている。筆者はこれを『系列ヘッジ』と呼んでいる。原材料価格の値上がりは次々とメーカー間で値上げされていき、最後には消費者が値上がりを負担している。
日本全国のメーカーが先物を利用せずに同じことを行っているから、こうした『系列ヘッジ』(価格の顧客への転嫁)に対しても誰もが当たり前の常識と思っている。ところが、韓国や中国の鉄鋼メーカーは先物市場を利用している。ことに中国のメーカーは鉄鉱石も上場して先物でヘッジを始めたため、以前は3か月に一度の鉄鋼席メーカーとの価格交渉があった鉄鉱石や石炭価格は、毎日価格が変わることになった。中国が新日鉄に代わって豪州などの鉄鉱石メーカーと価格交渉を行うようになった。先物市場でのヘッジを手軽に行っている中国の鉄鋼メーカーは、鋼材価格を値上げしない。先物でヘッジしていれば、価格変動リスクはなくなるからだ。新日鉄のように、素材価格が上昇すると自動車メーカーなどに価格の交渉を行う必要はない。日本の市場相手だけであれば、先物を利用しなくても農家や鉄鋼メーカーは価格が上がると顧客に転嫁すれば良いが、中国や韓国のメーカーが先物を利用して値上げをしないとすればどうなるであろうか?
先物取引市場の主な利用方法は、ヘッジ取引である。日本語にすると掛け繋ぎと訳され何のことやら分かり難いが、Hedgeとは価格変動リスクを市場につないで価格変動リスクを無くす行為である。
具体的には、銅の鉱石を銅鉱山から購入する。価格は受渡月のLME3か月先物価格の月間平均価格とする。3か月というのは、海外からロンドンに運ばれる非鉄金属の航海日数がおおよそ3か月先であったことから、LMEでは3か月先物価格が標準となっている。日本の東京商品取引所ではおおむね1年先物価格を取引することが慣習となっており、NYMEXやCBOTなどの米国市場は、期近限月の受渡が取引の主流となっている。
たとえば、コメの生産する農家は、今は7月だが、秋に収穫されるであろうコメを大阪堂島商品取引所の今日の10月限価格で売却すれば、今日の価格でその農家が生産するコメの価格は確定する。数量は、作れるであろうコメの量だが、異常気象等に備えて水田の田植えをした量の全部ではなく、少し少なめにヘッジする。秋に実際にコメを収穫したとき、豊作で7月より価格が下がっていても、大阪堂島商品取引所の指定受渡場所までトラックで持ち込めば、7月に先物市場で売却した価格で清算される。逆に不作で価格が高騰している場合も契約した先物価格の代金しか受け取ることはできない。往々にして、農家や企業経営者で、こうしたヘッジの仕組みを知らない人が、「なんで先物市場なんか使うのだ」と怒ることがある。しかし、もし豊作で価格が暴落したときは「どうして先物市場でヘッジしておかないのだ」と言う。実際に銅鉱山取引で某商社の役員は非鉄金属担当役員に対して上記の、両方の言葉を投げかけている。都合の良い方をおっしゃるのであるが、経営者たるもの価格をヘッジしたのは、保険を掛けたのと同じであり、事故が起こらなければなんで保険なんかかけるのだと言い、事故があればどうして保険をかけていなかったのだと言うことと同じである。
世界の大半の農家は、ことに米国や中国、ブラジルやアルゼンチンのトウモロコシや大豆生産者、カナダや豪州の小麦生産者、南米などのコーヒー生産者は先物市場を利用して農園で生産する作物の一部の量を先物でヘッジしている。
日本の鉄鋼メーカーやアルミの建材などを使用するサッシメーカーは先物市場を利用していない。
筆者は、何度も新日鉄の子会社の亜鉛メッキメーカーに対して先物でヘッジしたらどうかと提案したが、どうしても先物を理解してくれなかった。新日鉄が作る鉄板は、鉄のままだと錆びてしまうため、亜鉛メッキが欠かせない。自動車鋼鈑にしてもガードレールなどその他の鉄製品もほとんどが亜鉛メッキ鋼鈑である。亜鉛の価格は常時動いており、毎月彼らの仕入れ原価は上下動している。価格が下がれば利益がでるが、亜鉛価格が急騰したりすると大損となる。ところが、新日鉄は先物市場を理解せず、利用しない。なぜなら、亜鉛価格が上昇すると顧客に対する鋼材の価格を値上げするからだ。年に何回か顧客と鋼材価格を交渉し、価格は毎年必ず上がることになっている。筆者はこれを『系列ヘッジ』と呼んでいる。原材料価格の値上がりは次々とメーカー間で値上げされていき、最後には消費者が値上がりを負担している。
日本全国のメーカーが先物を利用せずに同じことを行っているから、こうした『系列ヘッジ』(価格の顧客への転嫁)に対しても誰もが当たり前の常識と思っている。ところが、韓国や中国の鉄鋼メーカーは先物市場を利用している。ことに中国のメーカーは鉄鉱石も上場して先物でヘッジを始めたため、以前は3か月に一度の鉄鋼席メーカーとの価格交渉があった鉄鉱石や石炭価格は、毎日価格が変わることになった。中国が新日鉄に代わって豪州などの鉄鉱石メーカーと価格交渉を行うようになった。先物市場でのヘッジを手軽に行っている中国の鉄鋼メーカーは、鋼材価格を値上げしない。先物でヘッジしていれば、価格変動リスクはなくなるからだ。新日鉄のように、素材価格が上昇すると自動車メーカーなどに価格の交渉を行う必要はない。日本の市場相手だけであれば、先物を利用しなくても農家や鉄鋼メーカーは価格が上がると顧客に転嫁すれば良いが、中国や韓国のメーカーが先物を利用して値上げをしないとすればどうなるであろうか?
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