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市場とは何か その3

多くの市場参加者が価格の形成に参画して公正な価格を形成するところに市場の存在意義がある。近年の中国やインドでは、先物市場を充実させて価格の形成を自国民の手で行うことを是とする政策を採っている。そのため上海市場や大連、鄭州市場は、シカゴやロンドンの出来高を上回る取引量となっている。
たとえば金価格の形成は、以前はロンドンのギルドの中で行われていた。5社の会員が毎日午前と午後に小さな部屋に集まってひそやかに価格を取り決めていた。ロンドンフィキシング価格というものがそれである。こうした仲間取引で金価格が決まることを嫌って、米国はニューヨークのCOMEX市場に先物取引として金を上場し、金価格はNY金価格が支配するようになった。一方中国は、上海にいち早く金の先物市場を創設したが、その後上海黄金交易所という現物市場も作り、ロンドンのフィキシング価格の形成を奪い取った。筆者は香港駐在員の頃、中国有色金属公司と取引を行っていたが、そこの若手トップはみなロンドンに転勤し、金や非鉄金属の現物や先物取引の仕組みを学び、上海に持ち帰って市場創設に当たった。金のみならず、原油や穀物についても中国は力を入れている。大連の穀物市場は元々三井物産が満州で採れた作物を日本に輸出する時の価格を形成するために創設した先物市場である。戦前の日本では、絹糸を始めとする紡績業が盛んで、輸出する織物価格を決めるために先物市場を利用していた。日本の先物市場が現在のNY原油市場のように、世界の綿糸や絹糸の価格を決めていたのである。
生産者にとっても先物市場に参画するのは当たり前のことである。豪州の小麦生産者やブラジルのコーヒー農園の経営者は毎日コンピューターに向かってシカゴの小麦価格やニューヨークのコーヒー価格をチェックすることが日課となっている。作っている小麦やコーヒーの生産コストを、先物価格がある程度上回れば彼らは躊躇なく先物市場で小麦やコーヒーを廃却してしまう。生産者は、作物を作り過ぎているのか、天候不順で出来が悪いか等の生産状況を肌身で感じている。だから豊作になりそうで価格が下がりそうだと考えれば先物市場の価格で売却してしまう。その契約を先物市場で受け渡して履行してもいいが、価格が下がったところで先物を買い戻して収益化しても良い。その場合実際に作ったものは豊作で安くしか売れないとしても先物で得た収益が採算を補ってくれる。以前コーヒー価格が暴落したとき、さぞブラジルのコーヒー農園は疲弊しただろうと想像したが、実際には、ブラジルの農民は暴落のはるか以前に採算の取れる価格で売り繋いでおり、コーヒー価格の暴落はブラジルの農民には他人事だったと報道で知った。賢い農民はこうして自衛しているが、日本の農民は豊作だと価格が下がり損を出し減反して政府からの補助金に頼る生活を送っている。もう少し賢く経営してはいかがであろうか。農民のみならず、日本の企業は先物取引を知らないことにより、大きな収益機会を失っていることはみなさんご存知だろうか?

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