- 2018-04-11 (Wed)09:53
- 近藤雅世
- マーケット全般
昨年12月14日トルコ中央銀行は金融政策決定会合において政策金利を12.25%から12.75%に引き上げた。今時にしては高い金利である。安いトルコリラを買ってスワップポイントを得ようとする為替投資家もたくさんいるかもしれない。
しかし、利上げにはそれなりの理由がある。まず、トルコには政治的な不安定さがある。エルドアン大統領は、2003年軍部の政治介入をやめさせてトルコを「先進的な民主国家」にするという公約を掲げ、圧倒的支持を得て首相に就任した。好調な経済に加え、中東諸国やその他の地域とも良好な外交関係を保った。この頃がエルドアンの評価が頂点に達したときである。しかし2011年の第三次内閣のあたりから、政権に批判的なジャーナリスト・政治家・企業に対しての圧力を強め、エルドアン首相の国際社会の評価は下がり始める。エルドアン首相は、2014年トルコで初めての大統領選挙を実施し、自ら大統領に就任した。それ以降独裁的な色彩を強めてトルコのイスラム化を推し進めた。世俗派の守護者を自負するトルコ軍は政教分離を重視していたため、エルドアン大統領と軍との関係は良くなかった。2016年7月、軍のクーデター未遂事件が発生している。2017年大統領権限の拡大を目的とした憲法改正を発議し、4月の国民投票において賛成多数で可決した。2015年の総選挙で敗北するまでトルコ国内に在住するクルド人に対する政策は融和的であった。しかし、危機的状況を自ら演出して民衆の支持を得る政策を採用し、エルドアン大統領はクルド人組織に対し軍事的攻撃に出た。一方米国は、イスラム国(ISIL)を討伐するためにクルド人民兵組織(YPG)を支援していたため、現在、米国とトルコは不和になっている。トルコはYPGをテロ組織とみなし、シリアのYPG拠点への越境攻撃を続けている。トルコは米兵が駐留する地域での攻撃も検討しており、現在両国軍が衝突する非常事態が懸念され始めている。
また経済的脆弱性も挙げられる。エルドアン大統領は減税など国民に迎合的な政策を採っている。その結果経常収支は赤字となっている。2013年米大手金融機関モルガン・スタンレーが『フラジャイル・ファイブ』という造語を作り、対外的な危機に脆弱(フラジャイル)な国として、トルコ、インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカを挙げた。当時これら5カ国は高インフレと経常赤字が問題視されていたが、その後トルコを除く4カ国は消費者物価の沈静化と経常赤字の縮小が進んでいる。しかし、トルコの経常赤字は依然として他の4カ国より高水準である。また、2017年のトルコの消費者物価上昇率は+11.1%と、世界第一位で、かつ唯一の二桁のインフレとなっている。特に2017年10〜12月期は12%台と2004年以降最も高い上昇となった。
また、償還まで1年未満の短期対外債務は、トルコと南アフリカは対GDPで10%超と高水準である。トルコの短期対外債務は国内の高金利を嫌気した民間企業が国内外の金融機関から外貨建てで借り入れを膨らませてきた結果である。
仮に金融危機が発生し資金が流出した場合、外貨準備を利用して為替介入を実施し自国通貨を買い支える必要があるが、トルコは外貨準備が短期対外債務分しかなく、市場リスクが高まったときの歯止めが効かず、通貨が急落しやすくなっている。
経常赤字と貿易赤字の双子の赤字は改善のめどが立たない。財政収支は景気刺激策による歳出の増加により中央政府の支出だけで前年比+58%増となっており、信用保障基金はすでに2,210憶リラ(582億ドル)分が使用され、追加融資の余裕がない。また政府は失業対策として2018年に11万人もの契約社員を公務員として雇用する考えを示しており、今後そのための多額の財政支出が予想される。また、貿易赤字はリラ安を主因とした輸入の増加により拡大している。
トルコ経済はいまのところ順調である。名目GDPは、2016年第3四半期はクーデターがあったためマイナス成長となったが、それもあって2017年の第3四半期は前年同期比+11.1%と大きく伸びている。消費や設備投資などの内需に支えられ、設備稼働率が78.8%と高水準にあることや、政府による投資促進策(国有地の無償提供や法人税の減税)等から、固定資本投資は底堅く推移するものと思われる。実質GDPは2016年+3.2%、2017年+5.1%、2018年+5.0%、2019年+3.5%と見られている。こうした好調な経済にもかかわらず、トルコリラは昨年1月4日を100とした指数で▲9.4%の下落となり、対ドル為替の中では最も値下がりした通貨となっている。トルコには大きな弱点がある。一つは止まらないインフレであり、二つ目はエルドアン大統領の政権維持のためのバラマキ政策による財政赤字拡大である。独裁者は強権を発動して政敵を倒したり、自らの任期延長を図る。また海外に敵を作って国内の団結を図る。一方で大衆迎合的な政策を採って国民に媚びを売る。中国にしてもロシアにしても背景に豊かな経済力があっての長期独裁政権化であるが、トルコにはそれほど強大な経済的バックボーンは無い。インフレに国民が不満を持ち始めれば、軍隊とは折り合いが悪いエルドアン政権が延命を図るには、かなりの困難が伴うのではないかと思われる。
<リスクを伴うトルコリラ買い>
経済指標では成長しているかもしれないが、上記のようなバラマキ財政によるインフレ下の経済成長がどこまで続くか、かなり疑問である。米国との緊張が高まれば市場はトルコを買うのを躊躇するのではなかろうか。エルドアン政権の安泰が前提となるトルコリラ買いは、かなりのリスクを前提としているように思う。
<インフレと金買い>
現在のトルコは、インフレ下における金買いの天啓的な例を提供している。昨年トルコは361トンの金を輸入し、2016年の106.1トンに比べて3倍以上になり、これまで最高だった2013年の302トンを超えた。輸出用宝飾加工品の金需要と投資需要の増加によるものだった。
また、トルコ中央銀行でさえも昨年は564.8トンまで金の外貨準備を増やしている。ドルの外貨準備を金に替えたものである。トルコの外貨準備は2016年から+16憶ドル増やし、金の保有額は16年の141億ドルから235憶ドルになっている。
トルコの金宝飾品加工量は前年比+13%伸び88トンとなっている。また投資用は前年比+60%増で、コインは+70%増となっている。ただ、宝飾品の売れ行きが良いわけではなく、リラ安によりリラ建て金価格が約22%値上がりし、消費は▲4%減と思われる。
つまり、強いインフレ下では金の価格は値上がり、人々は自国通貨を貯めるのではなく、せっせと貯まった通貨を金に替えているのである。
しかし、利上げにはそれなりの理由がある。まず、トルコには政治的な不安定さがある。エルドアン大統領は、2003年軍部の政治介入をやめさせてトルコを「先進的な民主国家」にするという公約を掲げ、圧倒的支持を得て首相に就任した。好調な経済に加え、中東諸国やその他の地域とも良好な外交関係を保った。この頃がエルドアンの評価が頂点に達したときである。しかし2011年の第三次内閣のあたりから、政権に批判的なジャーナリスト・政治家・企業に対しての圧力を強め、エルドアン首相の国際社会の評価は下がり始める。エルドアン首相は、2014年トルコで初めての大統領選挙を実施し、自ら大統領に就任した。それ以降独裁的な色彩を強めてトルコのイスラム化を推し進めた。世俗派の守護者を自負するトルコ軍は政教分離を重視していたため、エルドアン大統領と軍との関係は良くなかった。2016年7月、軍のクーデター未遂事件が発生している。2017年大統領権限の拡大を目的とした憲法改正を発議し、4月の国民投票において賛成多数で可決した。2015年の総選挙で敗北するまでトルコ国内に在住するクルド人に対する政策は融和的であった。しかし、危機的状況を自ら演出して民衆の支持を得る政策を採用し、エルドアン大統領はクルド人組織に対し軍事的攻撃に出た。一方米国は、イスラム国(ISIL)を討伐するためにクルド人民兵組織(YPG)を支援していたため、現在、米国とトルコは不和になっている。トルコはYPGをテロ組織とみなし、シリアのYPG拠点への越境攻撃を続けている。トルコは米兵が駐留する地域での攻撃も検討しており、現在両国軍が衝突する非常事態が懸念され始めている。
また経済的脆弱性も挙げられる。エルドアン大統領は減税など国民に迎合的な政策を採っている。その結果経常収支は赤字となっている。2013年米大手金融機関モルガン・スタンレーが『フラジャイル・ファイブ』という造語を作り、対外的な危機に脆弱(フラジャイル)な国として、トルコ、インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカを挙げた。当時これら5カ国は高インフレと経常赤字が問題視されていたが、その後トルコを除く4カ国は消費者物価の沈静化と経常赤字の縮小が進んでいる。しかし、トルコの経常赤字は依然として他の4カ国より高水準である。また、2017年のトルコの消費者物価上昇率は+11.1%と、世界第一位で、かつ唯一の二桁のインフレとなっている。特に2017年10〜12月期は12%台と2004年以降最も高い上昇となった。
また、償還まで1年未満の短期対外債務は、トルコと南アフリカは対GDPで10%超と高水準である。トルコの短期対外債務は国内の高金利を嫌気した民間企業が国内外の金融機関から外貨建てで借り入れを膨らませてきた結果である。
仮に金融危機が発生し資金が流出した場合、外貨準備を利用して為替介入を実施し自国通貨を買い支える必要があるが、トルコは外貨準備が短期対外債務分しかなく、市場リスクが高まったときの歯止めが効かず、通貨が急落しやすくなっている。
経常赤字と貿易赤字の双子の赤字は改善のめどが立たない。財政収支は景気刺激策による歳出の増加により中央政府の支出だけで前年比+58%増となっており、信用保障基金はすでに2,210憶リラ(582億ドル)分が使用され、追加融資の余裕がない。また政府は失業対策として2018年に11万人もの契約社員を公務員として雇用する考えを示しており、今後そのための多額の財政支出が予想される。また、貿易赤字はリラ安を主因とした輸入の増加により拡大している。
トルコ経済はいまのところ順調である。名目GDPは、2016年第3四半期はクーデターがあったためマイナス成長となったが、それもあって2017年の第3四半期は前年同期比+11.1%と大きく伸びている。消費や設備投資などの内需に支えられ、設備稼働率が78.8%と高水準にあることや、政府による投資促進策(国有地の無償提供や法人税の減税)等から、固定資本投資は底堅く推移するものと思われる。実質GDPは2016年+3.2%、2017年+5.1%、2018年+5.0%、2019年+3.5%と見られている。こうした好調な経済にもかかわらず、トルコリラは昨年1月4日を100とした指数で▲9.4%の下落となり、対ドル為替の中では最も値下がりした通貨となっている。トルコには大きな弱点がある。一つは止まらないインフレであり、二つ目はエルドアン大統領の政権維持のためのバラマキ政策による財政赤字拡大である。独裁者は強権を発動して政敵を倒したり、自らの任期延長を図る。また海外に敵を作って国内の団結を図る。一方で大衆迎合的な政策を採って国民に媚びを売る。中国にしてもロシアにしても背景に豊かな経済力があっての長期独裁政権化であるが、トルコにはそれほど強大な経済的バックボーンは無い。インフレに国民が不満を持ち始めれば、軍隊とは折り合いが悪いエルドアン政権が延命を図るには、かなりの困難が伴うのではないかと思われる。
<リスクを伴うトルコリラ買い>
経済指標では成長しているかもしれないが、上記のようなバラマキ財政によるインフレ下の経済成長がどこまで続くか、かなり疑問である。米国との緊張が高まれば市場はトルコを買うのを躊躇するのではなかろうか。エルドアン政権の安泰が前提となるトルコリラ買いは、かなりのリスクを前提としているように思う。
<インフレと金買い>
現在のトルコは、インフレ下における金買いの天啓的な例を提供している。昨年トルコは361トンの金を輸入し、2016年の106.1トンに比べて3倍以上になり、これまで最高だった2013年の302トンを超えた。輸出用宝飾加工品の金需要と投資需要の増加によるものだった。
また、トルコ中央銀行でさえも昨年は564.8トンまで金の外貨準備を増やしている。ドルの外貨準備を金に替えたものである。トルコの外貨準備は2016年から+16憶ドル増やし、金の保有額は16年の141億ドルから235憶ドルになっている。
トルコの金宝飾品加工量は前年比+13%伸び88トンとなっている。また投資用は前年比+60%増で、コインは+70%増となっている。ただ、宝飾品の売れ行きが良いわけではなく、リラ安によりリラ建て金価格が約22%値上がりし、消費は▲4%減と思われる。
つまり、強いインフレ下では金の価格は値上がり、人々は自国通貨を貯めるのではなく、せっせと貯まった通貨を金に替えているのである。