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米国債務上限問題

シリア問題が解決し、イランと米国との関係も対立から和平ムードに変わり、地政学的リスクは縮小している。懸案事項は、米国の財政問題であろう

今回の交渉におけるオバマ政権/民主党対共和党の対立点は財政赤字や歳出の削減ではない。医療保険改革法(通称オバマケア)の関連予算の削除を認めるか否かという対立である。これまで同法案の廃案を計ってきた共和党は、全く成果が出ないまま14年1月からの医療保険加入義務付けを迎えようとしている。

2つの関門があり、今日9月30日までに政府の暫定予算が成立しなければ、明日から米国政府の機関は警察など緊急な組織を除いて閉鎖される。これはほとんど不可避となっている。

もう1つの関門は、10月17日までに国債を発行する債務上限法案が可決されなければ、償還を迎える既発債の資金手当ができず、米国債はデフォルトになる。デフォルトになれば、米国債をはじめとするあらゆる金利が急上昇し、株価は急落し、消費者と企業の信頼感は減退し、米国経済は景気後退に陥る展開となる。それは世界経済にも影響を及ぼすだろう。
米国債は暴落するはずであるが、今のところ米国債が買われて、金利は低下している。安全資産としての国債が買われているが、金にも同じことが言えるだろう。金利や配当は無いが、株価が下落して経済が悪化する様相となれば、資金は金に流れ込むだろう。FRBも金融緩和の縮小どころではなくなるはずである。

28日までの状況は、下院では共和党提案の12月15日までの暫定予算案が9月20日に可決したが、医療保険改革関連予算の除外という条件付きだった。上院は多数派の民主党がこの条件に反対し、期間を11月15日までに短縮、条件なし、すなわち医療保険改革法の関連予算を復活させるという修正を加えた。この修正暫定予算案は27日午後に上院で可決され下院に送られた。これに対して下院共和党は28日午後に上院案に医療保険改革法の本格施行を一年遅らせる、同胞の医療危機税を廃止するという2つの修正を加え、同日中に下院で採決すると発表した。下院共和党は事実上の協議の相手である上院民主党に対して譲歩するどころか、強い反発を示し、政府閉鎖やむなしとの意向を示したに等しい。下院がこの修正案を可決しても、上院がそれを可決する見通しはまずない。

2010年3月にオバマ政権と当時は上下両院の多数派を占めていた民主党が共和党の上下両院議員全員の反対を押し切って成立させた。そのため反発した共和党は10年の中間選挙で下院の多数派を奪還してからは、同法による医療保険加入義務付けが始まる2014年より前の同法廃止を目指して、これまで40回以上も同法つぶしに挑んできた。しかしその成果は全く上がっていない。この間世論調査では医療保険改革法への不支持が支持を上回り続けた。同法により医療保険未加入の3000万人超の国民は医療保険を受けられるようになるが、既加入の多くの国民は保険料の負担が増える見通しであることが主因である。だが、子供が26歳になるまで親の医療保険の対象でいられるようになったなど、医療保険の既加入者が新たに受ける恩恵もすくなくなかったこともあり、上院の民主党議員の一部に翻意を迫るような同胞廃止の機運が社会で高まることはなかった。上院でも世論の追い風を受けて民主党議員の一部を切り崩すことは可能と楽観視してきた共和党にとっては大きな誤算だった。

共和党は連邦最高裁が医療保険改革法に違憲判断を下すことにも期待していたが、ぎゃくに12年6月に連邦最高裁は合憲と判断した。同年11月の大統領セント上院選ではオバマ大統領と民主党が勝利して、ついに同胞廃止を目指しつづけてきた共和党は窮地に追い込まれた。

その共和党が14年1月からの医療保険加入義務付けを阻止して同法を骨抜きにできる最後の機会として飛びついたのがこの14年度の予算協議と債務上限引き上げ交渉である。予算協議は政府閉鎖、債務引き上げ交渉は連邦債務のデフィルトをそれぞれ人質にとって、医療保険改革法の骨抜きに追い込むというのが共和党の方針である。

最近の世論調査では共和党のやり方に対する不支持が59%となっているが、共和党は妥協する気配はない。現時点での政府機関閉鎖となる確率は90%以上となっている。

連邦政府閉鎖のダメージに懲りた民主・共和党がどれだけ歩みより、債務上限の引き上げに速やかに応じるかどうかが焦点となる。妥協が整わず、こじれればこじれるほど、また10月17日が近づけば近づくほど金価格は上昇するだろう。しかし、一旦妥協が成立し、債務上限法案の可決が見えれば、金価格は上昇した分だけ急落するだろう。

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