- 2011-10-20 (Thu)15:51
- 近藤雅世
- 経済動向
野村証券のリチャード・クー氏が発行するマンデーミーティングメモに、欧州金
融危機に関連する興味深いことが書いてあった。その一部をご紹介したい。
「メキシコが1982年8月に返済不能に陥ったが、ものの数週間のうちにブラジ
ル・アルゼンチン・ベネズエラ・チリ等の国々へ次々と危機が波及してこれらの
国々も資金調達が出来なくなった。同時にこれらの国々が返済不能に陥ったこと
でこの地域に多額の資金を貸し込んでいた多数の米銀も実質的に破綻状態に陥っ
た。
幸運なことに、当時のFRB議長だったボルカー氏は事の深刻さに当初から気づき、
ワシントンから次々と指示を出してこの危機が拡大するのを防いだ。
例えば、メキシコが借金不能に陥ったその金曜日に、ボルカー氏は米国の銀行検
査官達に、メキシコに融資している米銀が一行たりともメキシコから逃げ出すの
を止めるように命令した。一行が逃げ出そうとし、その結果メキシコが完全に破
綻すれば、そこに巨額のカネを貸し込んでいた米銀も一緒に破綻してしまう。
検査官達はメキシコに100万ドル以上融資している銀行を全てリストアップし、
各行に連絡を入れ、一緒に行動をとるよう要請した。また、ボルカー氏は各国の
中央銀行にも電話を入れ、それらの国々の銀行もメキシコへの融資を継続するよ
う呼び掛けた。当時の中南米への貸し出しはシンジケート・ローンという形態を
とっており、全世界から多くの銀行が大手米銀の組織したシンジケートに参加し
ていた。この結果数百行の銀行からなる護送船団(convoy)が作られた。
このような対策を、問題が発覚した初日から打ったことで、関係していた数百行
の銀行は一つの運命共同体にまとめ上げられ、彼らが「追い貸し」することでメ
キシコは金利を払うことが出来、表面的にはメキシコのデフォルトは回避された
形になった。また、銀行が不良債権の処理に動くのを止めるため、中南米向け融
資は実質不良債権化していたにも拘わらず、三つある米国の金融検査当局が全て、
これらを優良債権扱いすることにした。これは米銀が中南米から逃げ出す理由を
取り除くことが目的だった。
このような体制の中で米銀は体力の強化が求められ、その期間は1989年まで7年
間も続いた。それまでは中南米向け債権を不良債権として勝手に処理することを
事実上禁止されたのである。
この中でシティバンクだけは1987年に自行の体力が十分に回復したとして中南米
向け債権の処理に動くが、ボルカー氏はこのシティバンクの行動を見がってだと
公の場で非難し、体力が十分回復していない他の米銀がシティバンクに追随する
プレッシャーを取り除いた。
この中南米債務危機は、1989年に発生した米国S&L(貯蓄貸付組合)の危機のゆう
に10倍の規模であったにも拘わらず、ボルカー氏がこのような対策を打った結果、
危機は納税者の金を一切使わずに解決され、一般のアメリカ人は1982年から10年
以上も米銀が危機的状況にあったことさえ知らなかった。
中南米債務危機と今回のユーロ危機との違いで重要なのは、前者は当局が危機発
生の当初からシステミック危機を気付き、全行が一丸となる運命共同体を作った
ことから、金融機関間の相互不信が発生しなかったという点である。
また、当局は、銀行の体力がつくまで不良債権処理を要求しなかったので、米国
内で銀行の自己資本不足に起因する貸し渋りは発生しなかった。
しかも納税者のカネを必要としなかったことから政治の余計な干渉を受けずに済
み、金融の専門家がベストと思う方法で問題の解決を進めることができた。
これに比べて今回のユーロ・ソブリン危機は、当局が当時のボルカー氏のような
運命共同体作りをやらず、各金融機関がこぞってギリシャ国債を手放そうとした
結果、これらの債券の価格は急落してしまった。
また、全行が同じ問題を抱えているシステミック危機であるにも拘わらず、当局
は各行の資本不足や不良債権の処理といったオーソドックスな対応にこだわり、
システム全体をどう救うかという視点を持ち合わせていなかった。
しかし、全ての銀行が同じ問題を抱えている時は、不良債権を売却しようとして
も買い手はほとんどいないなかで、資産価格は更に下がりかねない。同様に、資
本を調達しようとしても出し手がほとんどいないなかで、そのコストは大変高い
ものになってしまいかねない。
このような性急な不良債権処理や、高コストな資本による自己資本比率の改善は
両方とも銀行の体力を強化するどころか、逆に弱体化させる危険性がある。
しかも当局から不良債権処理を急がされ、それで損失が拡大したのを埋める資本
もたいへん高価であるとなれば、銀行は限られた資本で生き残るため、保有する
資産を圧縮する方向へ動くだろう。」
ということは今のような局面で通常の不良債権処理と自己資本比率の増強を強要
する政策を採れば、ユーロ圏内の銀行の貸し渋りは更にひどくなることになる。
これはただでさえ脆弱なユーロ圏経済をますます弱めてしまうだろう。
融危機に関連する興味深いことが書いてあった。その一部をご紹介したい。
「メキシコが1982年8月に返済不能に陥ったが、ものの数週間のうちにブラジ
ル・アルゼンチン・ベネズエラ・チリ等の国々へ次々と危機が波及してこれらの
国々も資金調達が出来なくなった。同時にこれらの国々が返済不能に陥ったこと
でこの地域に多額の資金を貸し込んでいた多数の米銀も実質的に破綻状態に陥っ
た。
幸運なことに、当時のFRB議長だったボルカー氏は事の深刻さに当初から気づき、
ワシントンから次々と指示を出してこの危機が拡大するのを防いだ。
例えば、メキシコが借金不能に陥ったその金曜日に、ボルカー氏は米国の銀行検
査官達に、メキシコに融資している米銀が一行たりともメキシコから逃げ出すの
を止めるように命令した。一行が逃げ出そうとし、その結果メキシコが完全に破
綻すれば、そこに巨額のカネを貸し込んでいた米銀も一緒に破綻してしまう。
検査官達はメキシコに100万ドル以上融資している銀行を全てリストアップし、
各行に連絡を入れ、一緒に行動をとるよう要請した。また、ボルカー氏は各国の
中央銀行にも電話を入れ、それらの国々の銀行もメキシコへの融資を継続するよ
う呼び掛けた。当時の中南米への貸し出しはシンジケート・ローンという形態を
とっており、全世界から多くの銀行が大手米銀の組織したシンジケートに参加し
ていた。この結果数百行の銀行からなる護送船団(convoy)が作られた。
このような対策を、問題が発覚した初日から打ったことで、関係していた数百行
の銀行は一つの運命共同体にまとめ上げられ、彼らが「追い貸し」することでメ
キシコは金利を払うことが出来、表面的にはメキシコのデフォルトは回避された
形になった。また、銀行が不良債権の処理に動くのを止めるため、中南米向け融
資は実質不良債権化していたにも拘わらず、三つある米国の金融検査当局が全て、
これらを優良債権扱いすることにした。これは米銀が中南米から逃げ出す理由を
取り除くことが目的だった。
このような体制の中で米銀は体力の強化が求められ、その期間は1989年まで7年
間も続いた。それまでは中南米向け債権を不良債権として勝手に処理することを
事実上禁止されたのである。
この中でシティバンクだけは1987年に自行の体力が十分に回復したとして中南米
向け債権の処理に動くが、ボルカー氏はこのシティバンクの行動を見がってだと
公の場で非難し、体力が十分回復していない他の米銀がシティバンクに追随する
プレッシャーを取り除いた。
この中南米債務危機は、1989年に発生した米国S&L(貯蓄貸付組合)の危機のゆう
に10倍の規模であったにも拘わらず、ボルカー氏がこのような対策を打った結果、
危機は納税者の金を一切使わずに解決され、一般のアメリカ人は1982年から10年
以上も米銀が危機的状況にあったことさえ知らなかった。
中南米債務危機と今回のユーロ危機との違いで重要なのは、前者は当局が危機発
生の当初からシステミック危機を気付き、全行が一丸となる運命共同体を作った
ことから、金融機関間の相互不信が発生しなかったという点である。
また、当局は、銀行の体力がつくまで不良債権処理を要求しなかったので、米国
内で銀行の自己資本不足に起因する貸し渋りは発生しなかった。
しかも納税者のカネを必要としなかったことから政治の余計な干渉を受けずに済
み、金融の専門家がベストと思う方法で問題の解決を進めることができた。
これに比べて今回のユーロ・ソブリン危機は、当局が当時のボルカー氏のような
運命共同体作りをやらず、各金融機関がこぞってギリシャ国債を手放そうとした
結果、これらの債券の価格は急落してしまった。
また、全行が同じ問題を抱えているシステミック危機であるにも拘わらず、当局
は各行の資本不足や不良債権の処理といったオーソドックスな対応にこだわり、
システム全体をどう救うかという視点を持ち合わせていなかった。
しかし、全ての銀行が同じ問題を抱えている時は、不良債権を売却しようとして
も買い手はほとんどいないなかで、資産価格は更に下がりかねない。同様に、資
本を調達しようとしても出し手がほとんどいないなかで、そのコストは大変高い
ものになってしまいかねない。
このような性急な不良債権処理や、高コストな資本による自己資本比率の改善は
両方とも銀行の体力を強化するどころか、逆に弱体化させる危険性がある。
しかも当局から不良債権処理を急がされ、それで損失が拡大したのを埋める資本
もたいへん高価であるとなれば、銀行は限られた資本で生き残るため、保有する
資産を圧縮する方向へ動くだろう。」
ということは今のような局面で通常の不良債権処理と自己資本比率の増強を強要
する政策を採れば、ユーロ圏内の銀行の貸し渋りは更にひどくなることになる。
これはただでさえ脆弱なユーロ圏経済をますます弱めてしまうだろう。
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