- 2011-06-08 (Wed)17:55
- 近藤雅世
- 金
野村証券のリチャード・クー氏は現在の米国経済を適切に表現していると常日頃思っている。彼が1990年代の資産バブル崩壊から続く日本のデフレ不況を分析し、資産バブル崩壊時の対応策がそれまでの不況に対する対応策とは異なることを見抜いて、これをバランスシート不況と名付けた。
その主な特徴は、企業資産の縮小に対抗して企業が負債を縮小させようとする動きが加速して、借金の返済に回り、資金を使おうとしなくなることだという。そのため、中央銀行がそれまでの不況対策同様に金融緩和を行い、金利を下げるという処方箋を講じても、一向に効き目は無く、中央銀行の貸出した資金は企業に滞留し支出しようとしない。企業向けに貸し出しが細った民間銀行は、ファンド等に資金を貸し出すことにより、投機資金が拡大し、新興国の株価や商品価格が上昇することになる。
米国FRBは、日本のバブル崩壊後のデフレ不況は、バブルが崩壊した時に金融引き締めを行ったことが原因だと分析し、今回の米国の金融バブルの崩壊に対してQE1〜QE2へと相次いで大量の資金を市場に投入した。彼らの見識では、それだけの大量の資金を市場に投入すれば必ず不況は克服され、好況に転じるというものであった。
ところが、先週米国の失業率が9.1%に二カ月連続で増加したように、米国の経済指標は一向に力強い回復を示していない。そのため、米国政府はドル安による輸出増を仕向けているが、これは近隣窮乏化政策であり、副作用がある。金融不安からドル安になっていたものを更に拍車をかけてドルをスパイラル的に安くしていく。どこかの時点で、ドル債券保有者があまりのドル安に耐えかねてドル債券を売り長期金利が上昇するという副作用である。これは米国企業経営をますます圧迫することになる。
それではどうすれば良いかという一つの処方箋としてリチャード・クー氏が挙げているのが財政出動による景気浮揚策であるという。ところが、時代は財政赤字の削減、緊縮財政という方向にあり、米国共和党はこれ以上の赤字は許さないとして、米国の借入枠上限を引き上げる法案を否決した。現在8月2日に向けて共和党とオバマ政権の話合いが行われているが、それまでに決着が付かなければ米国債の一時的なデフォルトが発生する恐れがある。このため格付会社が米国債の格付けを引き下げると警告している。これも米国債の利回りを上げることになる。
リチャード・クー氏は米国の地方政府の巨額の赤字についても、それを減らす緊縮財政を取ることは間違いで、それを助ける政府からの補助金の増枠を行うべきだという。要するに、バランスシート不況に陥った企業は、投資することを忘れて資金を貯め込み、貯蓄することに回っている。誰も資金を支出しようとしないときの最後の砦が政府の財政投資であり、それも縮小してしまっては、経済全体が委縮のスパイラルに入りこんでしまうというのが彼の意見である。このような時期に緊縮財政措置を取れば、税収がますます減少して財政赤字はますます増えるという。現在企業は、その資金を米国債を買い入れることで貯蓄しており、言葉を換えて言えば米国債をファイナンスしているのは米国企業でもあるという。
日本のバブル崩壊時以降の日本の財政赤字の大半は家計の貯蓄ではなく、企業の貯蓄によってファイナンスされてきた。デフレが最初に問題となった1998年から20101年迄351.3兆円の政府(地方を含む)の累積赤字のうち、312.1兆円が企業の貯蓄によってファイナンスされており、これは全体の89%にもなる。また、景気が悪くなり日銀が量的緩和に踏み切った2001年で見ると、政府の累積赤字251.1兆円に対して企業の累積貯蓄は258.2兆円となり、企業の貯蓄は財政赤字を全てファイナンスしてまだ余りが出るほどであった。
逆に言えば、企業の貯蓄増加額に比べ、政府の財政出動の増加額が不足したからこそ日本経済は元気がなかったわけで、もしもこの時、日本政府がこの企業の貯金を借りて使ってくれなかったら、それこそ日本経済は大恐慌に突入していたことを示しているという。
このことは、日本の個人金融資産だけを見て財政赤字が維持可能かどうかを議論することがいかに無意味であるかを示している。この20年間家計の貯蓄率はずっと縮小しており、その意味では、家計部門はずっとGDPを下支えしている側であった。家計が貯蓄率をずっと下げていたにもかかわらず、景気が低迷を続けたのはこの間、企業がとてつもない規模で貯蓄(借金返済を含む)を増やして景気の足を引っ張ってきたからだという。
難しい論理はさておき、リチャードクー流に言うなら、景気回復を果たすために米国を始めとする各国政府が取っている金融緩和は、景気回復に必要な企業の借入を増やすどころか、逆に企業は資金の返済を行っており、余剰資金国債等を買って貯め込んで使おうとしない。貸出先が無くて困った銀行はファンド等投機資金に貸し出し、それが商品バブルを産んでいるという。こうした先にはインフレと通貨安が待ち構えており、それは金価格をどこまでも押し上げる原動力となるだろう。
その主な特徴は、企業資産の縮小に対抗して企業が負債を縮小させようとする動きが加速して、借金の返済に回り、資金を使おうとしなくなることだという。そのため、中央銀行がそれまでの不況対策同様に金融緩和を行い、金利を下げるという処方箋を講じても、一向に効き目は無く、中央銀行の貸出した資金は企業に滞留し支出しようとしない。企業向けに貸し出しが細った民間銀行は、ファンド等に資金を貸し出すことにより、投機資金が拡大し、新興国の株価や商品価格が上昇することになる。
米国FRBは、日本のバブル崩壊後のデフレ不況は、バブルが崩壊した時に金融引き締めを行ったことが原因だと分析し、今回の米国の金融バブルの崩壊に対してQE1〜QE2へと相次いで大量の資金を市場に投入した。彼らの見識では、それだけの大量の資金を市場に投入すれば必ず不況は克服され、好況に転じるというものであった。
ところが、先週米国の失業率が9.1%に二カ月連続で増加したように、米国の経済指標は一向に力強い回復を示していない。そのため、米国政府はドル安による輸出増を仕向けているが、これは近隣窮乏化政策であり、副作用がある。金融不安からドル安になっていたものを更に拍車をかけてドルをスパイラル的に安くしていく。どこかの時点で、ドル債券保有者があまりのドル安に耐えかねてドル債券を売り長期金利が上昇するという副作用である。これは米国企業経営をますます圧迫することになる。
それではどうすれば良いかという一つの処方箋としてリチャード・クー氏が挙げているのが財政出動による景気浮揚策であるという。ところが、時代は財政赤字の削減、緊縮財政という方向にあり、米国共和党はこれ以上の赤字は許さないとして、米国の借入枠上限を引き上げる法案を否決した。現在8月2日に向けて共和党とオバマ政権の話合いが行われているが、それまでに決着が付かなければ米国債の一時的なデフォルトが発生する恐れがある。このため格付会社が米国債の格付けを引き下げると警告している。これも米国債の利回りを上げることになる。
リチャード・クー氏は米国の地方政府の巨額の赤字についても、それを減らす緊縮財政を取ることは間違いで、それを助ける政府からの補助金の増枠を行うべきだという。要するに、バランスシート不況に陥った企業は、投資することを忘れて資金を貯め込み、貯蓄することに回っている。誰も資金を支出しようとしないときの最後の砦が政府の財政投資であり、それも縮小してしまっては、経済全体が委縮のスパイラルに入りこんでしまうというのが彼の意見である。このような時期に緊縮財政措置を取れば、税収がますます減少して財政赤字はますます増えるという。現在企業は、その資金を米国債を買い入れることで貯蓄しており、言葉を換えて言えば米国債をファイナンスしているのは米国企業でもあるという。
日本のバブル崩壊時以降の日本の財政赤字の大半は家計の貯蓄ではなく、企業の貯蓄によってファイナンスされてきた。デフレが最初に問題となった1998年から20101年迄351.3兆円の政府(地方を含む)の累積赤字のうち、312.1兆円が企業の貯蓄によってファイナンスされており、これは全体の89%にもなる。また、景気が悪くなり日銀が量的緩和に踏み切った2001年で見ると、政府の累積赤字251.1兆円に対して企業の累積貯蓄は258.2兆円となり、企業の貯蓄は財政赤字を全てファイナンスしてまだ余りが出るほどであった。
逆に言えば、企業の貯蓄増加額に比べ、政府の財政出動の増加額が不足したからこそ日本経済は元気がなかったわけで、もしもこの時、日本政府がこの企業の貯金を借りて使ってくれなかったら、それこそ日本経済は大恐慌に突入していたことを示しているという。
このことは、日本の個人金融資産だけを見て財政赤字が維持可能かどうかを議論することがいかに無意味であるかを示している。この20年間家計の貯蓄率はずっと縮小しており、その意味では、家計部門はずっとGDPを下支えしている側であった。家計が貯蓄率をずっと下げていたにもかかわらず、景気が低迷を続けたのはこの間、企業がとてつもない規模で貯蓄(借金返済を含む)を増やして景気の足を引っ張ってきたからだという。
難しい論理はさておき、リチャードクー流に言うなら、景気回復を果たすために米国を始めとする各国政府が取っている金融緩和は、景気回復に必要な企業の借入を増やすどころか、逆に企業は資金の返済を行っており、余剰資金国債等を買って貯め込んで使おうとしない。貸出先が無くて困った銀行はファンド等投機資金に貸し出し、それが商品バブルを産んでいるという。こうした先にはインフレと通貨安が待ち構えており、それは金価格をどこまでも押し上げる原動力となるだろう。