- 2017-03-01 (Wed)09:20
- 近藤雅世
- マーケット全般
米国の情勢はトランプ大統領が減税やインフラ投資といった株式市場が期待している政策を具体的に実行できるかどうかにかかっている。
<欧州で相次ぐ選挙や英国のEU離脱>
一方欧州では、3月15日のオランダの下院議員選挙から始まり、4月23日のフランス大統領第一回目の投票が行われ、過半数を獲得する候補者がいない場合は上位二名による決戦投票が5月7日に行われる。
この二つの選挙で注目されているのは、ウィルダーズ氏率いるオランダ自由党と、ルペン氏率いるフランス国民戦線が共に、大統領に当選したらEU離脱の国民投票を行うことを公約のトップに掲げていることだ。
また、まだ日程は未定だが6月〜8月にかけて、イタリアの総選挙があり、9月24日にはドイツの連邦議会選挙がある。
選挙ではないが、3月末までに英国は欧州連合(以下EU)からの正式な離脱を表明することをメイ首相は約束している。
こうした一連の動きは1958年にローマ条約によって、欧州経済共同体と欧州原子力共同体が設立され、1993年にマーストリヒト条約によって欧州共同体として発足し、現在28か国が加盟しているEUが昨年6月の英国の離脱に始まり、今年はオランダとフランスというローマ条約を構成した6か国のうち2か国で残留か離脱かを占う間接的な選挙が行われる。
<EUの基本理念の問題点>
EUの基本理念として重要なのは、EU域内での「人・物・資本・サービスの移動の自由」という点だ。
人の移動の自由という観点では、EU域内であれば居住地・労働の場所を自由に選択することができる。労働条件などに関して、他の加盟国出身の労働者を不平等に扱うことは禁止されている。EU加盟国の国民は、他の加盟国において社会保障を受けることができる。そのため、所得水準の高い英国などに東欧のEU加盟国から移民の波が押し寄せた。
物の移動の自由という観点からは、加盟国間の貿易には関税が課されない。また他の加盟国からの輸入に数量制限をかけることは禁止されている。
資本の移動の自由では、ある加盟国から他の加盟国への貨幣の持ち出しや送金、投資に制限を設けることは禁止されている。さらに商品、労働やサービスに対する対価・報酬の支払い制限に関しても禁止されている。
サービスの移動の自由は、医師、歯科医、獣医、薬剤師、建築設計士などの職業について、ある加盟国で免許を取得すれば他の加盟国においてもサービスを提供することができる。加盟国の一ヵ国で免許を取得した金融業者はEU全域で活動できる。
<英国のEU離脱のコスト>
英国メイ首相は3月末までにEU離脱を宣言するとしており、経済より移民の流入を抑えることに主眼を置いたHard Exitとなりそうである。宣言後2年間を目途にEUと離脱交渉を行うことになる。英国が模索するEUとの貿易関係には、規制が緩い順にノルウェイモデル、スイスモデル、トルコモデル、自由貿易協定モデル、世界貿易機関(WTO)協定モデルなど、EUとの経済関係の様々な水準のモデルがある。英国はEUと交渉中の2年間は、まだEUから離脱が正式に認められていないため、米国など他の国と二国間通商協定を結ぶことはできない。英国財務省は、最も影響の少ないと想定される場合でも、GDPは▲3.8%減、一人当たりGDPは年間1100ポンド(約14万円)減、税収は▲200億ポンド(約2兆5,500億円)減と試算している。最悪の場合はこの2倍になるという。
<オランダとフランスの選挙事前予想>
3月15日のオランダ下院選挙(定員150議席)は極右政党の自由党が第1党となる可能性が高い。しかし、単独で過半数獲得には至らず、主要政党が自由党との連立に否定的であるため、自由党政権の誕生は困難とみられている。最終的には自由党を除く連立政権となると予想されており、市場の混乱は回避されると予想されている。
フランス大統領選挙は、ルペン国民戦線党首は決戦投票で敗れるというのが現時点のメインシナリオである。しかし、最有力候補の共和党フィヨン元首相はスキャンダルで支持率を落とし、代わりにマクロン前経済相が浮上している。仏調査会社Ifopによれば決戦投票では、ルペン氏はマクロン氏に勝てないとみている。
<メルケル首相の行方>
米国の著名な国際政治アナリスト、イアン・ブレマー氏は、欧州が抱える様々なリスクの中でメルケル首相のリーダーシップの低下を最大のリスクに挙げている。『2017年は欧州で一連の政治リスクが再び発生し、その中から現実化するものが、いくつか確実に出てくる。BREXITは英国と欧州の溝を深めるし、フランスの選挙は、EU懐疑主義の国民戦線が権力を掌握する可能性がある。EUとトルコの間の難民合意が容易に瓦解することも考えられるし、大規模テロは、欧州が他の先進国に比べてはるかに大きなリスクであり続ける。また、ギリシャ危機は解消されないまま燻り続ける。これらの問題に対して、メルケル独首相は、これまで揺るぎないリーダーシップを発揮してきた。しかしながら、メルケル氏の難民政策は欧州全体で支持を欠き、ポピュリズムの高まりはドイツにも及んで「ドイツのための選択肢(AfD)」の抬頭を許している。これらはメルケル氏のビジョン「より強い欧州」に対する支持を蝕み、彼女の存在感を小さくし、ドイツ・EUにおけるリーダーシップに打撃を与えることになろう』と述べている。
マルティン・シュルツ前欧州議会議長がSPD(社会民主党)の党首となって以来、世論調査でシュルツ党首(支持率50%)がCDU(キリスト教民主同盟)メルケル首相(同34%)を初めて上回った。
これまで、EUを強力に引っ張ってきたメルケル首相が退陣することになれば、その後継者がどれだけ、メルケル並みの指導力を発揮してEUの結束を固めることができるかどうかも、今年の一つの大きなリスクである。
こうした欧州の地政学的リスクは、3月15日から始まる選挙の結果次第では株価や金の価格を変動させる要因となるだろう。
<欧州で相次ぐ選挙や英国のEU離脱>
一方欧州では、3月15日のオランダの下院議員選挙から始まり、4月23日のフランス大統領第一回目の投票が行われ、過半数を獲得する候補者がいない場合は上位二名による決戦投票が5月7日に行われる。
この二つの選挙で注目されているのは、ウィルダーズ氏率いるオランダ自由党と、ルペン氏率いるフランス国民戦線が共に、大統領に当選したらEU離脱の国民投票を行うことを公約のトップに掲げていることだ。
また、まだ日程は未定だが6月〜8月にかけて、イタリアの総選挙があり、9月24日にはドイツの連邦議会選挙がある。
選挙ではないが、3月末までに英国は欧州連合(以下EU)からの正式な離脱を表明することをメイ首相は約束している。
こうした一連の動きは1958年にローマ条約によって、欧州経済共同体と欧州原子力共同体が設立され、1993年にマーストリヒト条約によって欧州共同体として発足し、現在28か国が加盟しているEUが昨年6月の英国の離脱に始まり、今年はオランダとフランスというローマ条約を構成した6か国のうち2か国で残留か離脱かを占う間接的な選挙が行われる。
<EUの基本理念の問題点>
EUの基本理念として重要なのは、EU域内での「人・物・資本・サービスの移動の自由」という点だ。
人の移動の自由という観点では、EU域内であれば居住地・労働の場所を自由に選択することができる。労働条件などに関して、他の加盟国出身の労働者を不平等に扱うことは禁止されている。EU加盟国の国民は、他の加盟国において社会保障を受けることができる。そのため、所得水準の高い英国などに東欧のEU加盟国から移民の波が押し寄せた。
物の移動の自由という観点からは、加盟国間の貿易には関税が課されない。また他の加盟国からの輸入に数量制限をかけることは禁止されている。
資本の移動の自由では、ある加盟国から他の加盟国への貨幣の持ち出しや送金、投資に制限を設けることは禁止されている。さらに商品、労働やサービスに対する対価・報酬の支払い制限に関しても禁止されている。
サービスの移動の自由は、医師、歯科医、獣医、薬剤師、建築設計士などの職業について、ある加盟国で免許を取得すれば他の加盟国においてもサービスを提供することができる。加盟国の一ヵ国で免許を取得した金融業者はEU全域で活動できる。
<英国のEU離脱のコスト>
英国メイ首相は3月末までにEU離脱を宣言するとしており、経済より移民の流入を抑えることに主眼を置いたHard Exitとなりそうである。宣言後2年間を目途にEUと離脱交渉を行うことになる。英国が模索するEUとの貿易関係には、規制が緩い順にノルウェイモデル、スイスモデル、トルコモデル、自由貿易協定モデル、世界貿易機関(WTO)協定モデルなど、EUとの経済関係の様々な水準のモデルがある。英国はEUと交渉中の2年間は、まだEUから離脱が正式に認められていないため、米国など他の国と二国間通商協定を結ぶことはできない。英国財務省は、最も影響の少ないと想定される場合でも、GDPは▲3.8%減、一人当たりGDPは年間1100ポンド(約14万円)減、税収は▲200億ポンド(約2兆5,500億円)減と試算している。最悪の場合はこの2倍になるという。
<オランダとフランスの選挙事前予想>
3月15日のオランダ下院選挙(定員150議席)は極右政党の自由党が第1党となる可能性が高い。しかし、単独で過半数獲得には至らず、主要政党が自由党との連立に否定的であるため、自由党政権の誕生は困難とみられている。最終的には自由党を除く連立政権となると予想されており、市場の混乱は回避されると予想されている。
フランス大統領選挙は、ルペン国民戦線党首は決戦投票で敗れるというのが現時点のメインシナリオである。しかし、最有力候補の共和党フィヨン元首相はスキャンダルで支持率を落とし、代わりにマクロン前経済相が浮上している。仏調査会社Ifopによれば決戦投票では、ルペン氏はマクロン氏に勝てないとみている。
<メルケル首相の行方>
米国の著名な国際政治アナリスト、イアン・ブレマー氏は、欧州が抱える様々なリスクの中でメルケル首相のリーダーシップの低下を最大のリスクに挙げている。『2017年は欧州で一連の政治リスクが再び発生し、その中から現実化するものが、いくつか確実に出てくる。BREXITは英国と欧州の溝を深めるし、フランスの選挙は、EU懐疑主義の国民戦線が権力を掌握する可能性がある。EUとトルコの間の難民合意が容易に瓦解することも考えられるし、大規模テロは、欧州が他の先進国に比べてはるかに大きなリスクであり続ける。また、ギリシャ危機は解消されないまま燻り続ける。これらの問題に対して、メルケル独首相は、これまで揺るぎないリーダーシップを発揮してきた。しかしながら、メルケル氏の難民政策は欧州全体で支持を欠き、ポピュリズムの高まりはドイツにも及んで「ドイツのための選択肢(AfD)」の抬頭を許している。これらはメルケル氏のビジョン「より強い欧州」に対する支持を蝕み、彼女の存在感を小さくし、ドイツ・EUにおけるリーダーシップに打撃を与えることになろう』と述べている。
マルティン・シュルツ前欧州議会議長がSPD(社会民主党)の党首となって以来、世論調査でシュルツ党首(支持率50%)がCDU(キリスト教民主同盟)メルケル首相(同34%)を初めて上回った。
これまで、EUを強力に引っ張ってきたメルケル首相が退陣することになれば、その後継者がどれだけ、メルケル並みの指導力を発揮してEUの結束を固めることができるかどうかも、今年の一つの大きなリスクである。
こうした欧州の地政学的リスクは、3月15日から始まる選挙の結果次第では株価や金の価格を変動させる要因となるだろう。
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