- 2011-02-03 (Thu)15:48
- 近藤雅世
- 金
2月1日100万人のデモが実施されたカイロでは、ムバラク大統領は9月の大統領選挙に出馬しない意向をテレビで演説したが、任期は全うすると述べた。2日ムバラク大統領支持派もデモを行い反体制派と衝突、3人が死亡し1500人が負傷したという。軍は介入せず発砲しなかった模様。焦点はムバラク大統領の即時退陣と、その後にどんな政権が樹立されるかに移っている。
後継政権は不透明で、スレイマン副大統領の継承は反体制派が拒否しており、軍のサミ・エナン参謀総長が暫定政権の大統領になる可能性がある。エルバラダイ元原子力委員会事務局長も国内ではあまり知られていないという。一方、反体制派のムスリム同胞団も政権に就く用意はできていない。新政府は企業の信頼獲得や雇用創出を図らねばならず、ガザ地区の封鎖にも対応しなければならないが、ムスリム同胞団は、反政府運動がこれほど大規模になるとは予想していなかっただけに準備は整っておらず、国民の支持率も20〜40%と言われている。
ムスリム同胞団とは、エジプト人のハサン・アルバンナが1928年に創設したイスラム教スンニ派の社会運動団体。コーランを憲法とするイスラム国家建設などを目標とする。54年に当時のナセル大統領と対立して非合法化された。パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの源流もムスリム同胞団だ。テロをも辞さない原理主義思想の過激分子を抱える一方、構成員には医師や法曹関係者なども多く、貧困層への福祉活動などで根強い支持がある。2005年のエジプトの総選挙では、人民議会(定数454)で88議席を獲得し最大野党に躍進した。
エジプトの問題は以下の二点にある。
1)エジプトの新しい政権がムバラク大統領と同様に親米で、1979年イスラエルとの間に平和条約を結び中東諸国とイスラエルの橋渡しをする穏健な政権であるかどうかである。
仮にイスラム過激派が政権を握った場合は、米国やイスラエルとの緊張が一気に高まり、スエズ運河の運航も政治的に利用される可能性がある。イスラエルのネタニヤフ首相は2日、「イスラエルの力を強めなければならない」と述べ、軍事力増強に乗り出す可能性を示唆した。戦略上の重要な友好国であるエジプトで、イスラム原理主義勢力が主導権を握ることへの強い警戒感を改めて示した。
2)アルジェリア、チュニジアから発生した長期政権に対する民衆の不満の爆発は、チュニジアの大統領を亡命させ、エジプトの大統領の再選を断念させたが、イエメンでも30年指導者の地位にあるサレハ大統領は2月2日2013年の大統領選への出馬を断念し息子への権力継承も否定した。ヨルダンでは、反政府デモをきっかけに、アブドラ国王は2月1日、リファイ内閣のメンバーを更迭し、新首相にバヒート元首相を任命した。南のスーダンでは、1月30日南部スーダンが独立することを住民投票できめた。北部スーダンでは、首都ハルツームで学生デモが起き警官隊と衝突、バシル大統領の追放を要求している。こうした政変は各国に連鎖する。今恐れられているのは、エジプトの隣国リビアや、サウジアラビアである。これらの国はOPECを構成する主要石油産出国であるからだ。
商品価格への影響
原油価格がブレント原油価格は101ドルになり、NY原油価格は90ドルを超えている。またNY金は1331ドルで横ばいだ。
原油価格が上昇しているのは、エジプトが原油の生産に絡んでいるからではなく、また今すぐに紅海と地中海をつなぐパイプラインが止められたり、日量110万バレルの原油や、3040万トン(2010年)の液化天然ガスLNGが通過するスエズ運河の航行に支障が起きると思っているのではない。原油価格上昇の要因は、前述の2)のケースが起こり、中東諸国に次々と不平不満分子が騒乱を起こす可能性が高いと見ているようだ。
原油価格の値上がりは、一定の高さで反転下落すると思っている。なぜなら、原油価格が上昇するとせっかく回復しつつある世界の景気に悪影響があるからだ。来年に大統領選挙を控え、景気の回復に過敏になっているアメリカやフランス、ロシア、中国、韓国、台湾等の指導者は、原油価格が高騰すると、投機規制に手を付けるだろう。米商品先物取引委員会(CFTC)ではすでに原油の建て玉制限をいつでも行えるように、法整備を終えている。だから、NY原油は100ドルを長く超えることは恐らくないのではないだろうか。
同様なことは食料についても言える。中国政府は、2月1日鄭州・大連・上海の保証金を高くした。鄭州商品取引所では取引額に応じた保証金の割合を砂糖と綿花は13%、優良小麦は11%と従来より1ポイント引き上げた。上海先物取引所では銅、アルミニウムなどは11%に、亜鉛などは13%に、天然ゴムは14%に、鄭州同様それぞれ1ポイント引き上げた。
取引所はオールマイティーである。投機があまりにも過熱するとそれを冷やす手段を豊富に持つ。フランスサルコジ大統領は原油等商品価格の抑制に先鋭的である。オバマ大統領もフランス大統領に指摘されれば投機規制を刷る可能性がある。
その点、金は投機の規制対象にはなっていない。金価格が上昇しても困る人はいないからだ。その点が原油や食料価格とは違うところであるが、今のところ金はエジプトに反応していない。恐らくもっと危機的な地政学的リスクが感じられるようになれば金価格も上昇するだろう。
後継政権は不透明で、スレイマン副大統領の継承は反体制派が拒否しており、軍のサミ・エナン参謀総長が暫定政権の大統領になる可能性がある。エルバラダイ元原子力委員会事務局長も国内ではあまり知られていないという。一方、反体制派のムスリム同胞団も政権に就く用意はできていない。新政府は企業の信頼獲得や雇用創出を図らねばならず、ガザ地区の封鎖にも対応しなければならないが、ムスリム同胞団は、反政府運動がこれほど大規模になるとは予想していなかっただけに準備は整っておらず、国民の支持率も20〜40%と言われている。
ムスリム同胞団とは、エジプト人のハサン・アルバンナが1928年に創設したイスラム教スンニ派の社会運動団体。コーランを憲法とするイスラム国家建設などを目標とする。54年に当時のナセル大統領と対立して非合法化された。パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの源流もムスリム同胞団だ。テロをも辞さない原理主義思想の過激分子を抱える一方、構成員には医師や法曹関係者なども多く、貧困層への福祉活動などで根強い支持がある。2005年のエジプトの総選挙では、人民議会(定数454)で88議席を獲得し最大野党に躍進した。
エジプトの問題は以下の二点にある。
1)エジプトの新しい政権がムバラク大統領と同様に親米で、1979年イスラエルとの間に平和条約を結び中東諸国とイスラエルの橋渡しをする穏健な政権であるかどうかである。
仮にイスラム過激派が政権を握った場合は、米国やイスラエルとの緊張が一気に高まり、スエズ運河の運航も政治的に利用される可能性がある。イスラエルのネタニヤフ首相は2日、「イスラエルの力を強めなければならない」と述べ、軍事力増強に乗り出す可能性を示唆した。戦略上の重要な友好国であるエジプトで、イスラム原理主義勢力が主導権を握ることへの強い警戒感を改めて示した。
2)アルジェリア、チュニジアから発生した長期政権に対する民衆の不満の爆発は、チュニジアの大統領を亡命させ、エジプトの大統領の再選を断念させたが、イエメンでも30年指導者の地位にあるサレハ大統領は2月2日2013年の大統領選への出馬を断念し息子への権力継承も否定した。ヨルダンでは、反政府デモをきっかけに、アブドラ国王は2月1日、リファイ内閣のメンバーを更迭し、新首相にバヒート元首相を任命した。南のスーダンでは、1月30日南部スーダンが独立することを住民投票できめた。北部スーダンでは、首都ハルツームで学生デモが起き警官隊と衝突、バシル大統領の追放を要求している。こうした政変は各国に連鎖する。今恐れられているのは、エジプトの隣国リビアや、サウジアラビアである。これらの国はOPECを構成する主要石油産出国であるからだ。
商品価格への影響
原油価格がブレント原油価格は101ドルになり、NY原油価格は90ドルを超えている。またNY金は1331ドルで横ばいだ。
原油価格が上昇しているのは、エジプトが原油の生産に絡んでいるからではなく、また今すぐに紅海と地中海をつなぐパイプラインが止められたり、日量110万バレルの原油や、3040万トン(2010年)の液化天然ガスLNGが通過するスエズ運河の航行に支障が起きると思っているのではない。原油価格上昇の要因は、前述の2)のケースが起こり、中東諸国に次々と不平不満分子が騒乱を起こす可能性が高いと見ているようだ。
原油価格の値上がりは、一定の高さで反転下落すると思っている。なぜなら、原油価格が上昇するとせっかく回復しつつある世界の景気に悪影響があるからだ。来年に大統領選挙を控え、景気の回復に過敏になっているアメリカやフランス、ロシア、中国、韓国、台湾等の指導者は、原油価格が高騰すると、投機規制に手を付けるだろう。米商品先物取引委員会(CFTC)ではすでに原油の建て玉制限をいつでも行えるように、法整備を終えている。だから、NY原油は100ドルを長く超えることは恐らくないのではないだろうか。
同様なことは食料についても言える。中国政府は、2月1日鄭州・大連・上海の保証金を高くした。鄭州商品取引所では取引額に応じた保証金の割合を砂糖と綿花は13%、優良小麦は11%と従来より1ポイント引き上げた。上海先物取引所では銅、アルミニウムなどは11%に、亜鉛などは13%に、天然ゴムは14%に、鄭州同様それぞれ1ポイント引き上げた。
取引所はオールマイティーである。投機があまりにも過熱するとそれを冷やす手段を豊富に持つ。フランスサルコジ大統領は原油等商品価格の抑制に先鋭的である。オバマ大統領もフランス大統領に指摘されれば投機規制を刷る可能性がある。
その点、金は投機の規制対象にはなっていない。金価格が上昇しても困る人はいないからだ。その点が原油や食料価格とは違うところであるが、今のところ金はエジプトに反応していない。恐らくもっと危機的な地政学的リスクが感じられるようになれば金価格も上昇するだろう。
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