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先物とは何か その6

将来変動する価格で売らねばならない場合の先物利用を挙げてみよう。これは通常の資材購入がその例となる。今日1000ドルで原材料を仕入れする。それを加工して製品にして販売するとき原材料価格は800ドルに下がっているかもしれない。その時の製品の買い手は800ドルの原料価格に加工賃を足した金額しか払ってくれない。メーカーは原材料の値下がりによって▲200ドルの赤字が出る。原材料価格は常に高くなるとは限らない。常に高くなる相場であれば、早く買った者勝ちとなる。しかし、価格は上がったり下がったりする。
その昔の鉄鋼メーカーなどは、原材料価格、つまり鉄鉱石価格はゆっくりと徐々に上がるものであった。だから鉄鋼メーカーは鉄鉱石価格が上がるたびに自動車メーカーなどの鋼材ユーザーに値上げのお願いに行っていた。鉄鋼メーカーの営業とは、顧客の開拓などほとんどないので、値上げをお願いに行くことが唯一の営業行為であり、その日のために日頃から顧客の購買担当者とゴルフだ、麻雀だ、銀座で一杯だと、接待することが仕事であった。
非鉄金属商品はロンドンメタル市場つまりLMEに上場されている。こうした素材を使って製品を作っている電線メーカーなどは、LMEでのヘッジは当たり前である。なぜなら、素材価格の銅価格が上昇しても、電線の販売先である電力会社または関電工などの電気工事メーカー、あるいは自動車用ワイヤーハーネスを使う自動車メーカーは、銅価格の変動で電線の価格を上げてくれるようなところはない。しかし、電線メーカーは毎月変わる原材料の銅価を吸収して、一定の電線価格をキープしている。何もしていなければ、銅価格が上昇すると電線メーカーは大損し、銅価格が下落すると大儲けすることになる。しかし、住友電工や古河電工の決算書にはそうした損益の変動は出ていない。何故か?それは、銅精錬メーカーから銅地金を購入するとき、LMEでヘッジしているためだ。例えば500トンの銅地金を1000ドルで銅精錬メーカーから購入したら、その場でLMEにおいて1000ドルで3か月先物を500トン分売却する。住友電工は購入した銅地金を加工して電線にして3か月の間に売却する。毎日販売された電線の銅地金量は営業から購買担当者に連絡がある。その販売量分の先物取引を毎日買い戻すのである。1000ドルで一括して購入した500トンの銅地金は先物で500トンの売りとなっている。毎日売れた銅地金量約10トンずつを買い戻すのである。価格は毎日変化しており、現物か先物のどちらかが利益となり、どちらかが損失となるため、合わせれば価格変動による損益は通算すればゼロとなる。こうして、現物取引で価格が下落するたびに出る営業の損益と全く同じ損益が先物取引で得ることができる。単純に3か月後銅価が800ドルに下がっていれば、購入した銅地金の評価損は▲200ドル出るが、LMEで売っていたものを買い戻せば、価格が下がった分の+200ドルの利益が出る。逆にもし価格が1200ドルに上昇していれば、LMEの先物の売りポジションは▲200ドルの先物取引損失が出るが、すでに保有している銅地金の在庫には+200ドルの評価益が出るので、通算すれば資材価格の変動による損益は出ない。
近年日本の石油元売り業者は原油価格が急落し25ドル/バレルになったとき、大きな評価損失を出したと新聞沙汰になった。しかし、原油在庫を大量に保有する商社がそうした原油在庫の評価損失を出したと聞くことはない。なぜなら全量ヘッジしているからだ。つまり一部の石油元売り会社は先物を利用していなかったのであろう。先物を利用しないということは、価格が上がると在庫は大きな評価益となるが、価格が下がると大きな評価損を抱えることになる。歴代の経営者が一人でずっと居座っているような同族経営企業であれば、常時ヘッジしないことは、数十年単位で決算をみれば価格は上がったり下がったりしているので、在庫の評価損益は長い目ではイーブンになると言えるが、上場企業で1年決算や外国のように四半期決算をしていれば、原材料価格が下がった時の経営者は、この例のように大きな評価損失を出した企業の株主から批判を受けても仕方ないだろう。幸い日本の株主はこうした先物利用の知識を持ち合わせていない。先物ヘッジをしない経営者が石油在庫で莫大な評価損失を出したところで、「原油価格が下がったのだからあの人は運が無かった」で済まされる。新聞論調ですらそうである。これが欧米の経営者であった場合は、株主代表訴訟を起こされてもしかたがないのではなかろうか。

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