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市場とは何か その5

筆者は、アルミのカーテンウォールの販売を担当したことがある。高層ビルの外壁のことをカーテンウォールという。アルミの壁に窓がついているので、大手サッシメーカーの仕事である。商社としては土建電販と呼ばれる職種で、最も原始的な営業形態であった。つまりコネと顔の営業である。売り先はゼネコンまたはビルのオーナーである。鉄骨やセメント等の建設資材はどこから買っても品質にそれほど差異はない。カーテンウォールはかなり高度な技術を要するが、大手サッシメーカーの技術力は似たりよったりで、たいがいビルの四面を違うサッシメーカーが受注する。それでも図面を見れば完成度はどこも同じとなる。
 ここで言いたいのは、カーテンウォールの話ではない。アルミの原材料価格の話である。ビルの建設には土地の取得から数年かかることがある。カーテンウォール等の受注は未だ鉄骨が立たない段階で行われることが多い。そして、納品は契約から数年後である。それでもサッシメーカーはアルミ形材の価格を見積もり時の時価で計算してゼネコンに提出する。アルミ価格がその後安くなれば、素材価格の利ザヤで大きな利益となるが、逆にアルミ価格が高騰すると大損となる。こうした受注をアルミサッシメーカーは平然と行っている。カーテンウォールの納品は土地の取得から数年先であるため、その時点の価格はどうなるかわからないが、そんなことをゼネコンには言えない。ゼネコンは見積もり時のアルミ価格を元に積算せよとおっしゃる。建設資材を納入する業者の損益は、原材料価格の変動を長い目では平準化すると見ているのであろう。つまり、大儲けしたり、大損したりを繰り返していれば長年ではプラスマイナスゼロになるという発想である。しかし、原材料価格が右肩上がりに上昇する場合はどうしようもなく損失ばかりとなる。一旦決めた価格を原材料が上がりましたので値上げしてくださいと後から申し出ることはゼネコン相手ではできない。先物取引を知らない業者はそうした損失を出している。その時社長となった人は株主に対して、原材料価格が急騰しまして今年は赤字になりましたと詫びるが、それを株主は原材料価格の値上がりなら仕方がないと受け止める。誰も先物取引を知らないからこうした常識がまかり通るのである。もし先物に精通した株主が株主総会でなぜ原材料を先物取引でヘッジしていなかったのですかと質問したら、社長はそれってどういうことですかとしらを切るだろう。あるいは先物は危ないから当社では行いませんとおっしゃるかもしれない。
私の経験で言えば、上海のある有名ホテルのカーテンウォール工事を数百万ドルで請け負ったとき工事が何年も遅延した。日本の某サッシメーカーは為替予約をしていなかった。そのため、数年工事が遅れた後の数百万ドルは円に直すと、折からの円高で手取りが大きく減っていた。そのため、この大工事は大赤字となり、責任者は、工事はうまくいったにもかかわらず左遷された。為替の場合でも予約するという先渡契約は常時可能であり、それを怠ると運が良ければ(この場合は円安になっていれば)大儲けだが、運が悪いと大損となる。先物契約も先渡契約もメーカーは素手で立ち向かう。韓国のメーカーであれば、経営者になるはずの若者は、必ず米国等の先物市場で現場訓練を受ける。だから先物取引に対する偏見は持っていない。日本のメーカーは先物と言えば怖いものだとか、投機だなどとのたまい一切手をつけようとしない。正にリスクを背負って立って営業しているのである。カーテンウォールの場合は、将来買う材料を今の価格で見積もるわけであるから先物を買い建てれば良い。LMEであれば何か月先でも契約できる。数年後の納品の前に原材料を買う必要が生じた時に、既に買っていた先物契約を売れば良い。原材料価格が高騰していれば、買った先物が高くなって先物契約で利益が出る分だけ、実際に高騰した原材料価格を使っても、通算すれば見積もり通りの利益が出る。将来買わねばならないときは先物を見積もりすると同時に今買っておく。将来売らねばならない場合はその逆である。

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