- 2018-07-25 (Wed)09:39
- 近藤雅世
- マーケット全般
将来売らねばならない場合の先物市場の利用方法について、もう一例挙げよう。筆者は三菱商事で貴金属チームリーダーだった。このチームはもっぱらプラチナ族金属を扱っていた。部下の二人のディーラーが、ロイター画面に向かって、毎日南アのプラチナ鉱山や、香港のスイス系銀行のディーラーとプラチナの現物を買い、日本や海外の、貴金属商、自動車メーカー、触媒メーカー等にプラチナを売る業務を行っていた。市場に上場されている商品価格は秒単位で価格が変わる。プラチナを買うと、買った次の瞬間に価格は動いてしまう。一方、自動車メーカーや宝飾品メーカーはもっぱら日中に電話で注文してくる。買った時と電話を受ける時は絶対に一致しない。つまり、買った価格で売ることは不可能である。買った価格が1時間後に下落したところに自動車メーカーから注文を受けると、自分が買った価格に手数料を上乗せして売るという通常の取引はできない。相手もロイター画面を見ているので、その時の国際価格で買い注文を出してくる。これは貴金属取引では自然なことで、貴金属のみならず国際市場に上場している商品は買った値段と売る値段は、時間が異なれば価格は異なる。何もしなければ、大儲けか大損の取引となる。その差額を手数料と称して顧客から受け取ることはできない。それではどうするか?
それは、右手でロイター画面によりプラチナを購入したら、左手の端末で東京商品取引所に売り注文を出すのである。それがどんな価格でも構わない。そして、自動車会社から注文が来た時、その時点のロイター画面の国際価格を述べて売り契約をし、右手で東京商品取引所の売り建て玉を買い戻せば良い。こうしていれば、価格変動リスクは無くなるのである。後は需給だけである。当時はソニーのハンディカメラができた頃で、同時に自動車が売れて触媒が足りなかった。コンデンサーという1ミリ角の製品がハンディカメラにたくさん装備されていた。またガソリン自動車の触媒にはパラジウムが適していた。これらの原料として半導体メーカーと自動車メーカーから注文が殺到し、一時は前年比5倍の注文が舞い込んだ。だから筆者は、パラジウムが不足した時、ロシアをはじめとする世界中の鉱山会社に飛んで、買い漁ったものである。量さえあれば価格のことは気にする必要はない。パラジウムは買っても、買っても足りなかったので、ほとんど世界中で買い占めるという暴挙もできた。価格を意識しなくても良く、商社の場合は資金も意識する必要がないと言う恵まれた環境だった。さて、こうした先物取引ができるには、国際的な価格の変動を東京商品取引所の価格が反映していることが前提である。商品取引所であるから、国際価格と大きな差は生まれないはずだ。ことに流動性が高ければ高い市場ほど、世界の価格は同じ瞬間には一物一価となるはすだ。そうでなければディーラーが市場間の裁定取引を行う。
裁定取引とは何かといえば、安い市場で買って高い市場で売ればその鞘が儲かるという仕組みである。スイスで買ったものを東京で売った場合、買ったものをスイスから東京に移動させるわけではない。違った時間に今度はスイスで買ったものを売り、東京で売ったものを買い戻せば、最初の価格差は利益化できる。異なる点は時間と為替だけである。例えば、スイスの価格が安くて東京(ドル×為替の価格)が高いとすれば、安いスイス市場で買って、高い東京市場で売る。1000ドルで、スイスで買った時、為替が100円/ドルだったら、東京市場は10万円のはずであるが、たまたま東京市場が11万円だったとすれば、少し時間が経ったとき、スイスで800ドルで売り戻したとしても、東京市場が正常な状態に戻れば、8万円になるはずである。だから、スイスでは▲200ドル損失が出るが東京では3万円の儲けとなる。東京市場で最初に売った時は国際市場との乖離が1万円あったが、その後の東京市場は国際市場に収斂されるということが前提となっている。こうした市場間のゆがみがあればアービトラージャーが瞬時に値差を利益化して市場間のゆがみを無くすというのが裁定取引であり、その結果として世界の市場は同じ時間であれば、一物一価となるはずである。
以前の東京商品市場は商社や裁定取引専門のディーラーがこうした市場間のゆがみを直していたので、東京市場の朝の価格はその時点のNY市場の価格とは異なっていた。つまり、NY市場は既に真夜中で休んでいる時間帯であり、東京市場の価格は異なった動きになるはずである。
しかし、最近の傾向はNY市場の終値が前日終値より高くなれば、東京市場の午前中の価格も高くなる傾向にある。円高に振れていてもそうしたことが起きるのは為替の動向をロイター画面で瞬時に計算している裁定取引業者が少なくなったからであろう。その分だけ、日本の投資家は、為替を見なくても、儲けやすくなっている。なぜか前日のNY市場の動きの通りに動くからだ。
それは、右手でロイター画面によりプラチナを購入したら、左手の端末で東京商品取引所に売り注文を出すのである。それがどんな価格でも構わない。そして、自動車会社から注文が来た時、その時点のロイター画面の国際価格を述べて売り契約をし、右手で東京商品取引所の売り建て玉を買い戻せば良い。こうしていれば、価格変動リスクは無くなるのである。後は需給だけである。当時はソニーのハンディカメラができた頃で、同時に自動車が売れて触媒が足りなかった。コンデンサーという1ミリ角の製品がハンディカメラにたくさん装備されていた。またガソリン自動車の触媒にはパラジウムが適していた。これらの原料として半導体メーカーと自動車メーカーから注文が殺到し、一時は前年比5倍の注文が舞い込んだ。だから筆者は、パラジウムが不足した時、ロシアをはじめとする世界中の鉱山会社に飛んで、買い漁ったものである。量さえあれば価格のことは気にする必要はない。パラジウムは買っても、買っても足りなかったので、ほとんど世界中で買い占めるという暴挙もできた。価格を意識しなくても良く、商社の場合は資金も意識する必要がないと言う恵まれた環境だった。さて、こうした先物取引ができるには、国際的な価格の変動を東京商品取引所の価格が反映していることが前提である。商品取引所であるから、国際価格と大きな差は生まれないはずだ。ことに流動性が高ければ高い市場ほど、世界の価格は同じ瞬間には一物一価となるはすだ。そうでなければディーラーが市場間の裁定取引を行う。
裁定取引とは何かといえば、安い市場で買って高い市場で売ればその鞘が儲かるという仕組みである。スイスで買ったものを東京で売った場合、買ったものをスイスから東京に移動させるわけではない。違った時間に今度はスイスで買ったものを売り、東京で売ったものを買い戻せば、最初の価格差は利益化できる。異なる点は時間と為替だけである。例えば、スイスの価格が安くて東京(ドル×為替の価格)が高いとすれば、安いスイス市場で買って、高い東京市場で売る。1000ドルで、スイスで買った時、為替が100円/ドルだったら、東京市場は10万円のはずであるが、たまたま東京市場が11万円だったとすれば、少し時間が経ったとき、スイスで800ドルで売り戻したとしても、東京市場が正常な状態に戻れば、8万円になるはずである。だから、スイスでは▲200ドル損失が出るが東京では3万円の儲けとなる。東京市場で最初に売った時は国際市場との乖離が1万円あったが、その後の東京市場は国際市場に収斂されるということが前提となっている。こうした市場間のゆがみがあればアービトラージャーが瞬時に値差を利益化して市場間のゆがみを無くすというのが裁定取引であり、その結果として世界の市場は同じ時間であれば、一物一価となるはずである。
以前の東京商品市場は商社や裁定取引専門のディーラーがこうした市場間のゆがみを直していたので、東京市場の朝の価格はその時点のNY市場の価格とは異なっていた。つまり、NY市場は既に真夜中で休んでいる時間帯であり、東京市場の価格は異なった動きになるはずである。
しかし、最近の傾向はNY市場の終値が前日終値より高くなれば、東京市場の午前中の価格も高くなる傾向にある。円高に振れていてもそうしたことが起きるのは為替の動向をロイター画面で瞬時に計算している裁定取引業者が少なくなったからであろう。その分だけ、日本の投資家は、為替を見なくても、儲けやすくなっている。なぜか前日のNY市場の動きの通りに動くからだ。
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