- 2016-10-26 (Wed)09:17
- 近藤雅世
- マーケット全般
2014年南アフリカでプラチナ鉱山における労働組合が半年にわたってストライキを行ったことがある。その当時プラチナディーラーは、世界に在庫がたくさんあるといい、プラチナを売り向かった。そのため、未曾有のストライキで世界のプラチナ生産量の7割を占める南アフリカの主要プラチナ鉱山の生産が半年ストップしたにも関わらず価格は下落した。
私が三菱商事でアルミニウムを担当していた時は、当時の通産省から毎月アンケート用紙が送られてきて、今月は何トンのアルミを仕入れて、何トン販売したか、平均価格はどのくらいかを書く欄があり、国内精錬メーカーと海外セーレンメーカー、スポット契約と長期契約などの仕分けがされていた。通産省は毎月これらの統計を元に、アルミニウムの動きをデータ化していたものと思われる。おそらくGDP統計などの経済統計もこうしたアンケートから成り立っているのだろう。
プラチナを担当していた時は、ジョンソンマッセーの担当者が年に二回日本に来てプラチナを扱っている各社を回ってヒアリングをしていた。民間の資料であるが、これが年二回のプラチナディナーの席上で公表される信頼できるプラチナの世界の需給の基礎的な資料であった。(現在この資料はBloombergを使っている者が約10万円で買う必要がある)
このJMの資料の項目には、在庫の欄は無かった。なぜなら、プラチナの主要な顧客は自動車触媒メーカーである。自動車触媒は当時から非常にデリケートな部品であり、その作り方やプラチナ・パラジウム・ロジウム・ルテニウムそれにセリウムなどの微量元素の配合比率は自動車メーカーと触媒メーカーの共同研究によるもので、企業秘密として門外不出であった。当時はガソリンの混合比率ごとに触媒が異なり、車の車重や排気量、点火時期などによって触媒が異なっていた。自動車各社は独自に触媒技術を進化させていた。ガソリン車は、ガソリンの水素と炭素の混合物を燃焼して酸素と混ざる。その際に空気中の窒素も巻き込んで、炭化水素、一酸化炭素、二酸化窒素など、人間が吸えば即死となる猛毒ガスを排出している。したがってエンジンルームの近くや、マフラーの中に排気ガスを清浄化する触媒を装置していた。触媒とは、セラミックで作ったハチの巣状のハニカムコアにプラチナ・パラジウム・ロジウム・イリジウム・ルテニウムなどを液状にして煉り合せた溶液に浸して、表面にプラチナ族金属を塗布したものである。原理は解明されていないが、なぜかプラチナ族金属の側を通った気体は、酸化還元反応を激しく行うように惹起される。それにより炭化水素は二酸化炭素と水素に還元され、一酸化炭素は二酸化炭素に酸化され、二酸化窒素などの窒素化合物は無毒な窒素に還元される。
こうした微妙なバランスの化学反応が触媒の中で行われており、自動車を解体すると触媒が最も高い自動車部品となる。コストが高いことから自動車メーカーは何とか脱触媒したいということで電気自動車やハイブリッド車を開発した。
さて、本題に戻すと、トヨタ以外の主要自動車メーカーは当時の私の顧客であり、その技術開発センターや生産現場にも足しげく通った。トヨタも年に何度かは表敬訪問をして、挨拶は欠かさなかった。そうした自動車メーカーが今何キロのプラチナを在庫として持っていますということは、たとえアンケート調査が来たとしても、正確な数字は決して言わないと私は思っている。プラチナの供給責任者の私にさえ、そんなことは聞くことができない秘密事項であった。購買担当者は今後数か月で何キロのプラチナが必要だという生産計画は教えてくれるが、在庫は雲の中である。そう思っていた私が、最新のGFMSの9月のレポートを見て、在庫量が書かれているのを発見した。GFMSの担当者は、2014年にプラチナの在庫量が多いとちまたで言われた時はたいへん驚いたと私と同じ感想を持ったことを述べていた。最近でこそ、World Platinum Investment Councilのデータに在庫が書かれているが、どうやって調べているのかは不明である。USDA(米国農務省)のように公的機関が5千人のフィールドワーカーを雇って、畑に出向いたり、生産者、流通業者、サイロ保有者、商社などにヒアリングしているため在庫量は比較的正確に把握できるのだと思う。しかし、貴金属のデータはしょせん民間企業が作成した資料である。在庫のデータなど取れないと思っている。鉱山会社の場合、その生産量や在庫量は、四半期ごとの決算書に載っているので、正確だとおもわれるが、自動車メーカーは数ある部品の中で、触媒の在庫とか、触媒に使われるプラチナの在庫などを決算書に載せるわけがない。
さて、最後にもう一度本題に戻すと、GFMSは、今年前半のプラチナ価格は、米国の投資家が押し上げたという。そして、来年も需給は供給不足がますますひどくなるので、価格は上がると述べている。私は何度こうしたことを引用したかわからないくらいだが、日本のプラチナ市場(かっては世界のプラチナ価格を決めていた)が再び需給にのっとった、公正な価格の形成を行うことを期待している。
私が三菱商事でアルミニウムを担当していた時は、当時の通産省から毎月アンケート用紙が送られてきて、今月は何トンのアルミを仕入れて、何トン販売したか、平均価格はどのくらいかを書く欄があり、国内精錬メーカーと海外セーレンメーカー、スポット契約と長期契約などの仕分けがされていた。通産省は毎月これらの統計を元に、アルミニウムの動きをデータ化していたものと思われる。おそらくGDP統計などの経済統計もこうしたアンケートから成り立っているのだろう。
プラチナを担当していた時は、ジョンソンマッセーの担当者が年に二回日本に来てプラチナを扱っている各社を回ってヒアリングをしていた。民間の資料であるが、これが年二回のプラチナディナーの席上で公表される信頼できるプラチナの世界の需給の基礎的な資料であった。(現在この資料はBloombergを使っている者が約10万円で買う必要がある)
このJMの資料の項目には、在庫の欄は無かった。なぜなら、プラチナの主要な顧客は自動車触媒メーカーである。自動車触媒は当時から非常にデリケートな部品であり、その作り方やプラチナ・パラジウム・ロジウム・ルテニウムそれにセリウムなどの微量元素の配合比率は自動車メーカーと触媒メーカーの共同研究によるもので、企業秘密として門外不出であった。当時はガソリンの混合比率ごとに触媒が異なり、車の車重や排気量、点火時期などによって触媒が異なっていた。自動車各社は独自に触媒技術を進化させていた。ガソリン車は、ガソリンの水素と炭素の混合物を燃焼して酸素と混ざる。その際に空気中の窒素も巻き込んで、炭化水素、一酸化炭素、二酸化窒素など、人間が吸えば即死となる猛毒ガスを排出している。したがってエンジンルームの近くや、マフラーの中に排気ガスを清浄化する触媒を装置していた。触媒とは、セラミックで作ったハチの巣状のハニカムコアにプラチナ・パラジウム・ロジウム・イリジウム・ルテニウムなどを液状にして煉り合せた溶液に浸して、表面にプラチナ族金属を塗布したものである。原理は解明されていないが、なぜかプラチナ族金属の側を通った気体は、酸化還元反応を激しく行うように惹起される。それにより炭化水素は二酸化炭素と水素に還元され、一酸化炭素は二酸化炭素に酸化され、二酸化窒素などの窒素化合物は無毒な窒素に還元される。
こうした微妙なバランスの化学反応が触媒の中で行われており、自動車を解体すると触媒が最も高い自動車部品となる。コストが高いことから自動車メーカーは何とか脱触媒したいということで電気自動車やハイブリッド車を開発した。
さて、本題に戻すと、トヨタ以外の主要自動車メーカーは当時の私の顧客であり、その技術開発センターや生産現場にも足しげく通った。トヨタも年に何度かは表敬訪問をして、挨拶は欠かさなかった。そうした自動車メーカーが今何キロのプラチナを在庫として持っていますということは、たとえアンケート調査が来たとしても、正確な数字は決して言わないと私は思っている。プラチナの供給責任者の私にさえ、そんなことは聞くことができない秘密事項であった。購買担当者は今後数か月で何キロのプラチナが必要だという生産計画は教えてくれるが、在庫は雲の中である。そう思っていた私が、最新のGFMSの9月のレポートを見て、在庫量が書かれているのを発見した。GFMSの担当者は、2014年にプラチナの在庫量が多いとちまたで言われた時はたいへん驚いたと私と同じ感想を持ったことを述べていた。最近でこそ、World Platinum Investment Councilのデータに在庫が書かれているが、どうやって調べているのかは不明である。USDA(米国農務省)のように公的機関が5千人のフィールドワーカーを雇って、畑に出向いたり、生産者、流通業者、サイロ保有者、商社などにヒアリングしているため在庫量は比較的正確に把握できるのだと思う。しかし、貴金属のデータはしょせん民間企業が作成した資料である。在庫のデータなど取れないと思っている。鉱山会社の場合、その生産量や在庫量は、四半期ごとの決算書に載っているので、正確だとおもわれるが、自動車メーカーは数ある部品の中で、触媒の在庫とか、触媒に使われるプラチナの在庫などを決算書に載せるわけがない。
さて、最後にもう一度本題に戻すと、GFMSは、今年前半のプラチナ価格は、米国の投資家が押し上げたという。そして、来年も需給は供給不足がますますひどくなるので、価格は上がると述べている。私は何度こうしたことを引用したかわからないくらいだが、日本のプラチナ市場(かっては世界のプラチナ価格を決めていた)が再び需給にのっとった、公正な価格の形成を行うことを期待している。
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