- 2020-02-05 (Wed)10:00
- 近藤雅世
- マーケット全般
前回香港の話題の最後といいながら、横道に逸れてしまった。今回こそ最後の話題で『取引は信用第一である』というエピソードだ。筆者は非鉄金属部門の代表として香港に駐在していた。香港には非鉄金属総商会という団体があり、その董事長はセントラルの小さなビルの二階に、小汚いオフィスを構える劉(ラオ)さんであった。赴任当初から日本から来る訪問者の大半は彼のところに連れて行き、香港の非鉄金属事情などをヒヤリングする相手であった。劉さんからもいくつかのオッファーをもらった。その一つが、北朝鮮産の亜鉛地金の日本向け輸出取引であった。それを本店につなぐと、買うことになった。
当時マカオに北朝鮮の代表部があり、おそらく劉さんはそこから取引をつないだものであろう。無事に日本向けのデリバリーが終り、当時亜鉛価格が急騰していたので、本店は大いに利益を上げたものである。
劉さんは、めったに日本人のオフィスに来ることは無い。ところが、ある日突然劉さんが私のオフィスに訪ねてきた。珍しいこともあるものだと応対すると、にこにこと笑いながら世間話の後で、『ところで近藤さん、あなたはあの北朝鮮の亜鉛地金を買った時に、その後亜鉛価格が上がると思っていたか』と問うてきた。若くて勢いのあった私は、胸を張って、それは天下の大商社です。世界中に情報網を持っており、おかげ様であの取引では大きな儲けを挙げさせていただきました。と返答し、劉さんは「ああそうですか、それは良かった」とにこにこと笑ってそのまま帰っていった。しかし、その後の5年間、劉さんは二度と私においしい話はくれなかった。いつも日本からの来客があるたびに会いにいくので、にこにこと応対してくれ、また、劉さんの弟が管轄する少量のスクラップの取引は続いていたが、大口の案件は私が香港を去るまでいただけなかった。そこで身に染みて知ったのは、香港華僑と取引する場合は、お互いに儲けを分け合わないといけないという厳しい原則があるということである。自分だけが儲けてはいけないのである。ましてや人を騙して儲けた場合は、その人は村八分に会い信用を失うことになる。ひとたび一人の華僑からは相手にされなくなると、他の華僑からも相手にされなくなるのである。それは私がいかに日本を代表する企業に勤めていようと関係ない、個人の話しであった。華僑が取引するのは、企業相手ではなく、個人対個人の取引であった。私が勤める企業の問題ではなく、私が信用できる人間かというのが判断基準であった。それに気づいたのは、もう香港を離れる頃であった。もし、劉さんに対してあんな大口をたたかずに、利益は折半という華僑との取引の大原則を守っていれば、私は香港駐在時代にもっと更に大きな実績を上げることが出来たであろう。
当時マカオに北朝鮮の代表部があり、おそらく劉さんはそこから取引をつないだものであろう。無事に日本向けのデリバリーが終り、当時亜鉛価格が急騰していたので、本店は大いに利益を上げたものである。
劉さんは、めったに日本人のオフィスに来ることは無い。ところが、ある日突然劉さんが私のオフィスに訪ねてきた。珍しいこともあるものだと応対すると、にこにこと笑いながら世間話の後で、『ところで近藤さん、あなたはあの北朝鮮の亜鉛地金を買った時に、その後亜鉛価格が上がると思っていたか』と問うてきた。若くて勢いのあった私は、胸を張って、それは天下の大商社です。世界中に情報網を持っており、おかげ様であの取引では大きな儲けを挙げさせていただきました。と返答し、劉さんは「ああそうですか、それは良かった」とにこにこと笑ってそのまま帰っていった。しかし、その後の5年間、劉さんは二度と私においしい話はくれなかった。いつも日本からの来客があるたびに会いにいくので、にこにこと応対してくれ、また、劉さんの弟が管轄する少量のスクラップの取引は続いていたが、大口の案件は私が香港を去るまでいただけなかった。そこで身に染みて知ったのは、香港華僑と取引する場合は、お互いに儲けを分け合わないといけないという厳しい原則があるということである。自分だけが儲けてはいけないのである。ましてや人を騙して儲けた場合は、その人は村八分に会い信用を失うことになる。ひとたび一人の華僑からは相手にされなくなると、他の華僑からも相手にされなくなるのである。それは私がいかに日本を代表する企業に勤めていようと関係ない、個人の話しであった。華僑が取引するのは、企業相手ではなく、個人対個人の取引であった。私が勤める企業の問題ではなく、私が信用できる人間かというのが判断基準であった。それに気づいたのは、もう香港を離れる頃であった。もし、劉さんに対してあんな大口をたたかずに、利益は折半という華僑との取引の大原則を守っていれば、私は香港駐在時代にもっと更に大きな実績を上げることが出来たであろう。
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