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過去の記事 - 2020 / 01 -

香港について(その8)

 みなさんは銀行が倒産して預金が無くなったという経験をお持ちの方はいらっしゃるであろうか? 日本でも1990年代の前半に銀行の貸し倒れ損失が増加し、90年代の後半には複数の大銀行が自己資本不足に陥った。そのため日本政府は大手銀行に対して資本注入し、自己資本不足の金融機関の営業継続を容認したが、大量の預金引き出しや山一証券のように、寄託有価証券の引出しという事態を招き、山一証券や三洋証券、北海道拓殖銀行は経営破綻し、長期信用銀行や日本債券信用銀行、第一勧業銀行、富士銀行、住友銀行、東海銀行、東京銀行、埼玉銀行等は合併により、みずほ銀行や三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、あおぞら銀行等に生まれ変わった。もはや以前のどこの銀行がどこになったのかわからなくなっている。1927年の昭和金融恐慌や、1973年の豊川信用金庫事件など、健全経営を行っていた銀行も、列車内で女学生が信用金庫など危ないわよと笑ってしゃべっていたことがきっかけで、取り付け騒ぎが起こって倒産している。
 さて、香港では筆者は実際に銀行が取り付け騒ぎに会って倒産した現場を見た。日本から来た顧客とマカオに渡るフェリー乗り場に行く途中、香港のセントラルに構える銀行店舗の前に長蛇の人の列が並んでいた。どうしたのだろうと、フェリーの中でテレビを見たら、その銀行が倒産したのだそうだ。名前を思い出せず、何度もネットで検索したがその情報は既に過去のものとなっておりどこにも名前は出ていなかった。この銀行は香港中に立派な支店を構え、英国風の名前で、余程詳しく調べなければバングラデシュの銀行であったことは誰も知らなかったであろう。銀行の経歴など、後になってからしかわからない。ちなみに、香港最大の不動産企業の信用調査を取り寄せた所、資本金は2ドル、当時の為替で34円であった。信用調査書には、ほとんど具体的な記載がない。それでもセントラル近辺のオフィス開発を行う三菱地所並みの大企業であった。
香港では一切が信じられないところから始まる。従って最も大切にされるのは信用である。ひとたび信用を失うと、香港のみならず華僑の世界では生きていけない。あいつはうそをつかず、約束は必ず守る男だという信用を勝ち取るまでは何年もかかり、一旦信用を勝ち取れば、後は面白いほど仕事が舞い込む。すべて口コミであり、記述された記録ではない。
倒産した銀行の話には後日談がある。香港では預金保険機構のような制度はなかったので(今もないと思うが)、銀行が破綻すれば文字通り一文の返金もないことになる。実際に、前回フェロシリコンを買った相手先に対して、中身が石ころだったので、香港の高等裁判所で訴訟して、毎月5万ドルずつ10回、合計50万ドルの支払いを受けるという和解契約を結んだ話をしたが、2回の支払いの後、相手先の企業は倒産した。慌ててオフィスを訪ねると、女社長がテーブルの上に100万米ドルの定期預金証書を見せてくれた。女社長はそれを指差し、「これパーなのよ」と、のたまった。確かに上記破綻銀行の預金証書であり、1億円以上の預金はゼロとなったのが現実であった。少しこの女社長に同情心が沸いて、別の会社名で同じ従業員が同じオフィスで働いていたが、東京の本店に対しては、相手先は倒産したと報告したものだ。香港では誰も守ってくれない。すべて自己責任の世界である。

香港について(その7)

香港のハブとしての役割は意外に知られていない。例えば香港の港が扱うコンテナの量は、日本の横浜と神戸港を合わせたより多い。そして、その港のコンテナターミナルは李嘉誠という個人の持ち物だというと驚かれないだろうか。彼は長江実業のオーナーで、香港島と九龍半島を結ぶトンネルも彼のものである。中国人は現金決済を好む。人を信用していないので、掛け売りは好まない。香港埠頭に接岸するコンテナ船が1本陸揚げされるたびに、李嘉誠の懐にコンテナ取扱料が入り、トンネルを1台車が通貨するたびに李嘉誠に通行料が入る。そうした収入に税金はほとんどかからない。私が住んでいたマンションにはロールスロイスとランボルギーニがざらにあった。

香港について(その6)

香港は正に情報の世界である。インターネットがこれほど発達する前には、あらゆる伝言ゲームにより世界で起こった情報が瞬時に流通している場所であった。情報があるところに金は集まる。香港は正に資本主義の権化であり、自己責任の、束縛のない自由な競争社会であり、巨大な市場であった。
香港で才覚があれば、すぐに大金持ちになるため、世界の大富豪があの小さい島にたくさん住んでいる。また世界のあらゆる種類の金融機関が香港に支店を出している。うがった見方ではあるが、日本の株式市場で日本株を買っているのは青い目の外人ばかりでなく、香港やシンガポールに支店を置く日本の大手証券会社や機関投資家が日本株を買っているのではないかと密に思っている。
さて、少し筆者の自慢話になるが、筆者は香港に6年駐在し、商社の出先と機関として、毎年数億円の収益を上げていた。本店の非鉄金属本部長からどうしてお前はそんなに儲けることが出来るのだとおほめの言葉をいただいた。なぜなら、ロンドンやニューヨーク、パリ等に非鉄金属を扱う駐在員を何人も送りだしているが、世界中の支店の中で、自分の経費を自分の利益で賄っているのはお前の香港だけである、前任者も本店からの仕送りが無ければ赤字だったと言われた。
筆者は通常の商社マンとは違った行動を取っていた。つまり、本店の指示を受けて動く駐在員ではなかった。独りの商人として、韓国から品物を買い、中国に売ったり、中国に在庫していた非鉄金属を米国に売ったり、米国のアルミの形材を香港のカーテンウォール(ビルの外壁)メーカーに売ったり、香港製のアルミ缶を日本のコカ・コーラボトラーズに売ったり多くの新しい取引を開拓した。電話一本で何十億という取引が簡単にでき、日本向けにフェロシリコンを売ったり、日本から直接中国には売れなかった半導体を香港経由で密かに売ったりした。
そこでは信用を重んじる華僑の世界に飛び込んで、食事を共にすることから始まり、嘘偽りの無い小さな商売を何度も繰り返して信用を勝ち取り、徐々に大きな話が持ち込まれるようになった。
中国産のフェロシリコンはしばしばブレコンバッグの中に石ころが積まれていた。そのまま日本に送ればクレームは必至であったが、何度か痛い目に遭ったうえで信用のおけるサプライヤーを探し出し、そうしたインチキで騙されることは少なくなった。それでも日本に送った500トンのフェロシリコンの半分が石ころだった時は、香港の華僑を相手に訴訟を起こし、和解して50万ドルを10回分割払いで支払いを受けることになった。数回振り込まれた後でその華僑は倒産したが、倒産とは名ばかりで同じ女社長は同じオフィスで同じ従業員と共に働いており、会社の名前だけが変わっているという華僑のしたたかさにも遭った。結局商売とは、相手が信用できるかどうかを見極めることから始まることを学んだ。安いとか高いというのは二の次である。商売をしても商品が偽物だったり、売った代金を払ってこなかったりすれば結局商売にはならない。信用できる相手を選ぶことが基本中の基本であった。

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