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市場とは何か その21

市場とは何か その21

市場が成立する必要十分条件のひとつに流動性の高さが挙げられる。日本の商品先物市場が混迷しているのは、商品取引員が商品先物取引に対するイメージを悪くさせたため、人々が簡単に商品先物取引を行わなくなったためである。その結果として、市場の流動性が著しく低下した。流動性が低いと、買っている建玉を売るに売れなくなる。そうした状況を防ぐために市場ではマーケットメーカーという大手投資家がいることがある。マーケットメーカーは売りでも買いでもその豊富な資金力によって取引を受けて立つ人のことを言う。相場に勝つということはある意味で資金力の戦いでもある。仕手筋とは、価格が上がると思って買いまくる人や、それを受けて、売りまくる人のことを言う。そうした仕手筋がいる市場では、買い建玉も売り建玉も容易に反対売買できる。

マーケットメーカーはそうした仕手筋とは違い、市場の運用を流動的にするために、売りでも買いでも受けて立つ人のことを言う。かって日本の商品取引に関しては商社がその役割を果たしていた。筆者が商社マンだったころは、資金繰りというものを考えたことは無かった。取引相手先の資金繰りの表を作って監視することはあっても、商社自体が資金に困るという念頭になかった。筆者のチームの年間取引高は数兆円に上っていたが売り上げ高を意識したことは無い。現物を扱う商社にとって、海外から現物を買う契約を行うと同時に先物取引所で売りヘッジを行う。現物が入荷して国内の顧客に販売できた時に先物を買い戻す。こうしたヘッジ取引を日常的に行っていれば、自然に先物取引所の流動性を高めることができる。先物取引での売買は機械的な取引であり、利益の獲得を目的としたものではない。現物を買い先物を売り、現物を売り、先物を買い戻すという単純なやり取りが大量に行われれば先物市場には流動性が生まれる。流動性は市場の潤滑油であり、血液の流れである。先物市場の流動性が少なくなると、商社も日本の市場では大きな取引ができなくなるので、海外の市場を利用することになる。流動性は、市場にとって、鶏が先が卵が先かの問題で、ひとたび流動性が損なわれると幾何級数的に市場はさびれる。

日本にはヘッジという概念が定着していないので、メーカーもユーザーも平気で価格変動リスクを背負いこみ、原料価格が上がると次々と顧客へ値上げを要請し、結果として最終需要家が価格変動の波をかぶることになる。先物市場があれば、価格変動は市場で吸収され、価格を意識することはない。価格はあくまで量の確保だけに関係してくるだけだった。つまり価格が上がりそうなら仕入れを増やし、下がりそうなら在庫を減らすという、物の量の調整を意識するだけだった。パラジウムが不足したとき、海外に飛んでパラジウムを買い漁った時も、価格はいくらでも良かった。市場でヘッジすれば価格のリスクはないためだ。先物市場を利用しないとこうした芸当はできなくなる。現物商社の先物利用の仕方は、現物取引の派生取引であり、投資家のように市場で安く買って高く売るという行動とは全く異なっている。

市場とは何か その20

10月23日の日本経済新聞で総合取引所構想が始動したことが報じられた。
先物などデリバティブ市場で出遅れている日本取引所グループは、いよいよ商品取引を導入することに本腰を入れ始めたようである。

筆者がフィスココモディティーを経営していた2005年頃、大阪商品取引所や東京商品取引所の幹部の訪問を何度か受け、また日銀からもヒヤリングを受けたことがある。日本にとって商品取引所が別建てになっていることに対する一つの懸念を各取引所は持っていた。

大阪商品取引所はその後東京商品取引所と合併し日本取引所になったが、先物等のデリバティブは大阪商品取引所が扱うことになった。しかし、例えば英国商品取引所は150を超える商品のETFが存在するが、日本取引所には商品ETFの上場は数えるほどしかない。

 米国の投資家は、商品も証券もETFだろうが先物だろうが、一つの証券会社の口座で取引ができる。金が上がりそうだと思えば、手持ちの株を売ってNYMEXの金を買ったり、原油を売ったりすることは一つの口座でできる。

政府の管理体制も、商品と証券という区別はなく、証券はSEC(証券取引委員会)が管理し、デリバティブ取引はCFTC(商品先物取引委員会)が管理している。CFTCとは商品先物取引委員会であるが、内容は証券も含めた全ての先物、オプション、スワップ等デリバティブ取引を管理している。

中国では日銀に相当する人民銀行が金を管理している。また金の現物を扱う上海黄金取引所は人民銀行によって設立管理されている。金や原油等の商品先物取引を扱う上海期貨交易所は、中国証券監督管理委員会の管理下にある。

一方日本は、商品は経済産業省(旧通産省)と農林水産省、金融商品は金融庁(旧大蔵省)の管轄に商品ごとに管轄されていることが、商品取引を世界に出遅れさせた一つの理由となっている。

金についても、本来金本位制度の頃は大蔵省が管轄していたが、通産省が金は「モノ」であるという観点から管轄を移管したため、日本の外貨準備における金の保有量は2001年以降765トンから全く変わっていない。その間に多くの国の政府保有金量は変わっている。ことに最近ではドルの金利が上がっており、米国債の価格が下がっているため、米国債に多額の評価損失が発生しており、ロシア、中国、インド、日本も米国債の保有量を減らしているが、その一方で、ロシアや中国、インド、カザフスタン、ポーランド、ハンガリー等多くの国は金の保有量を増やしている。中国は基軸通貨としてのドルを減らし、人民元建ての貿易取引を増やしているが、その通貨の裏付けとしての金を持とうとしている。

市場とは何か その19

 商品投資がお薦めなのは、三つの理由からです。一つは、商品価格は株価や債券価格等金融商品の価格変動とは相関性が無いということ。10月10日にNY株価が急落し、世界中の株価は一斉に下落しましたが、この時とばかりに金価格は上昇しました。NYDOW平均株価は、▲549.2ドル(▲2.1%)下落する一方で、NY金価格は、+34.2ドル上昇しています。株式投資から避難した資金は金ETFに向かい、日次の残高情報によれば、10月10日時点の1,638トンが、16日には1,656.5トンと+18.5トン増加しています。米国債の金利は3%を超えて上昇していますが、これは逆に言えば債券価格は急落しているということで、米国債を保有している投資家は、債券価格暴落による評価損失を被っています。10年も待って満期まで保有することができるのは、中央銀行等よほど資金に余裕のある機関投資家で、通常の債券投資家であれば、債券価格の下落は損切りに向かうところでしょう。価格の下落も一時的な調整安であると読めば、含み損を抱えながらの投資継続も可能かもしれませんが、今後の景気悪化次第では、これまでのような値上がりは、もう期待できないのではないでしょうか。

 二つ目の商品投資の魅力は、商品には信用リスクが無いという点です。株式や社債には、発行者の信用リスクが伴っています。倒産することはほとんどないと考えられますが、日本のバブル崩壊時や2008年以降の世界金融不安の時には、銀行の信用リスクでさえ大きく棄損し、つぶれることは無いと思われていた大手証券や大手銀行が合併や倒産の憂き目を見たことは事実です。金や商品には価値が低下することはあっても、価値が全くなくなることは、千年以上の歴史の中で無かったことです。その時々の需給や、その商品の必要性等の変化で価格が変わることはあっても価値がゼロとなることは考えられないでしょう。

 三つ目の商品投資の魅力は、株価や債券、為替等の金融商品に比べて、商品の方が価格の動向を把握しやすいという点です。株価にしても、為替にしても、なんとなくムードで売買されているのではないでしょうか。株価には、株価収益率等の指標がありますが、指標の基本となる収益そのものの動向は、その企業の経営者ですら正確には把握することは困難と思われます。単一商品を扱っている企業などないからです。一つの部門の業績が良くても、他の部門で大きな赤字が出る可能性は事前にはわからないでしょう。ましてや外部の人間がその企業の収益を計測することは不可能ではないでしょうか。更に、株価は3500銘柄以上あり、アナリストがそれらすべての企業の業績を分析することは難しく、個人が利用している会社四季報は、2ヵ月遅れで発行された情報で、とてもタイムリーで正確なものとは言えないと思います。その点、商品の需給は少なくとも月次ベースでは正確な世界の生産量と需要量が各国の政府機関等から統計数字となって公表されています。需要はある程度読みが入った数値ですが、過去の経過から逸脱するような情報はあり得ません。要するに商品価格の予測には比較的豊富で正確な統計データがあるということです。
 投資家は、ポートフォリオの一部に商品を組み込む方が、投資効率が上がるということは過去のファンドのパフォーマンスで現れています。少なくとも金を資産の5%程度は充てるべきだと言われています。

市場とは何かその18

今日あたり米国メキシコ湾にはハリケーンマイケルが通過しているが、こうした秋のハリケーン襲来も原油価格上昇の一因となる。マイケルは10月9日日本時間午後4時時点で
メキシコ湾に侵入していてちょうど下図の軌道上にあるメキシコ湾内のBPやエクソンの海上油田の従業員は現場から撤退しているので、ハリケーンの場合突然制はない。

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しかし、下グラフのように、2017年ヒューストン等を水没させたハリケーンハービーの場合は、ハリケーンが上陸して洪水を起こした8月28日のNY改質ガソリン価格にそれ程の異常はなかったが、テキサス州とルイジアナ州に爪痕を残して北上した後、それらの地域の石油精製設備にダメージがあり、当分生産できないことが判明してから31日にガソリン価格はスパイクを形成して急騰している。この急騰はまさに一日で終わったが、価格が事象を反映するには、その事象そのものではなく、商品に関係する重大な出来事が生じた時にのみ大きく反応するということである。ハリケーンはある程度予知可能な事象であり、
問題はその進路と、その進路における商品に関する影響の度合いである。ハリケーンハービーの場合、ガソリン価格がスパイクのように急騰し下落した後、主室に原油価格が上昇している。原油を取引していた人は、ガソリン不足を通じて生じた石油の需給引き締まりに後から原油が反応したので、ゆっくりと収益を確保することができた。そして、たまたまであるが、それがその後1年以上にわたる原油価格上昇の起点となっている。

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情報のマグニチュード

地政学的リスク等が市場に与えるインパクトを考える場合、その事象がどれだけの大きさで市場に影響するかについてそのマグニチュード(数値化された震度)を測る必要がある。つまり、言葉で読んだり、映像で見たりする情報は、事象の状況を知るものだが、市場に与える影響は、できるだけ数値化して分析しなければ、その状況が与えるインパクトがわからないということである。

原油の場合日量100万バレルの変動となれば一つの大きなインパクトの単位となるが、数十万バレルの下の方なら影響は軽微である。シリアの原油生産量は、2002年に過去最大の日量67万バレルを生産したことがあるが、2017年は日量2万7千バレルである。過去最大の時でも、シリア国内の需要を賄うのが精いっぱいで、海外に輸出できるほどのものではなかった。 従って、シリアでいくら内戦が激化しても、世界の原油需給には全く響いていない。
もう一つの内戦国スーダンと南スーダンも、当初はスーダン全体で2007年に日量48万3千バレルを生産したことがあるが、内戦により南北に分裂したスーダンでは、2017年のスーダンと南スーダンの原油生産量はそれぞれ、日量8万6千バレルと日量10万8千バレルであるが、以前に比べて合計約20万バレルの減産になったからといって、世界の需給が変わるわけではない。また、両国は分裂して以来、生産量が半減している。
現在米国の経済封鎖再開が11月4日に迫って問題となっているイランの原油生産を見てみよう。第一次オイルショック当時の1974年、イランは日量606万バレルの原油を生産していた。そして最近のオバマ政権による経済封鎖の頃の2013年には361万バレルまで生産量は減少していた。それが2017年の原油生産量は日量498万2千バレルとなっている。経済封鎖解除後に約+140万バレルほど急増している状況である。イランから原油を購入するインド、韓国、日本などはイランからの輸入量の削減を余儀なくされるだろう。中国はイラン産原油を買い支えるが、イランの原油生産量は11月以降再び300万バレル以下に減少すると思われる。日量約▲200万バレルほど減少するかもしれない。しかし、この分はサウジアラビアやロシア、米国などが生産を増加させて応えるものと思われる。どの国も原油価格が50ドル以上なら十分採算が合い、作れば作るほどもうかるが、作り過ぎて2016年のように原油価格が暴落することは怖いので、生産調整をしながら需要に合わせて増産するだろう。いずれにせよ、原油が足りなくなるというのは心理的な噂で、実際に供給不足で困るような事態にはならないと思われる。

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以上のようなデータは、毎年6月にBP社が発行するレポートにより世界各国の確認埋蔵量や生産量、消費量を得ることができる。

まとめると、地政学的リスクというものは二つの側面から見るべきである。
一つは現物需給に直接的な影響を与えるかどうかを数値的に把握し、そのマグニチュードを図って判断する。
次いで、それはそれとして、心理的影響が市場にどの程度及ぼすかを判断する必要がある。これは数値化できないので、市場の状況や市場からの声をよく観察するしかない。数値化されたマグニチュードが低い場合は、心理的影響は一時的に終わり、長続きはしないことが多い。



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